コラム

英議会がIS空爆を承認、反対派は「テロリストのシンパ」か

2015年12月03日(木)16時07分

シリアへ(写真は、スコットランドの基地を飛び立つ英空軍トーネード戦闘機) Russell Cheyne-REUTERS

 英下院は2日夜、約10時間にわたって審議し、過激派組織ISへの空爆をイラク領からシリア領にも拡大することを賛成397票、反対223票で承認した。ISによるチュニジアでの英国人観光客ら射殺をはじめ、ロシア旅客機爆破、パリ同時多発テロの続発を受け、無差別テロを封じるには、ISの本拠地シリアのラッカを叩くことが不可欠と判断した。

 11月13日のパリ同時多発テロから約20日が経過した。その間に、トルコ軍機がロシア軍機を撃墜するという不測の事態が起き、英国ではパリ同時多発テロの関連ニュースは目に見えて減っている。

「英下院がシリアでのIS空爆を承認」と言っても、新鮮味はまったくない。政治セレモニーに過ぎないからだ。英空軍のパイロットはすでに米空軍など同盟国の軍用機に乗り込み、シリア領での偵察・監視・爆撃などの作戦に参加している。

 英空軍機がシリアでのIS空爆に参加することに果たしてどれだけの意味があるのだろう。まずデータを見てみよう。

 米国主導の有志連合によるイラクやシリアでのIS空爆を集計しているサイト「エアウォーズ」によると、11月末までに空爆は482日、8599回に及び、2万8578発の爆弾やミサイルが落とされた。約2万3千人のIS兵士が殺害され、民間人に682~2104人の犠牲が出ている。

 イラクでのIS空爆は米国が圧倒的に多く3906回、その次は英国の397回。3番目がオランダの321回、4番目がフランスの300回だ。イラクのISを叩いても、いったんシリア国内に後退して、また出撃してくる「モグラ叩き」が続いていた。このため、フランスは9月からIS空爆をイラク領からシリア領に拡大した矢先にパリを襲撃された。

 シリアでのIS空爆に参加しているのはフランスのほか、カナダ、オーストラリア、サウジアラビア、トルコ、ヨルダン、バーレーン、アラブ首長国連邦(UAE)。空爆が難しいのはISが住民を「人間の盾」に使い、居場所を分からなくするために携帯電話やソーシャルメディアの使用を厳禁、自転車やバイクを使ったゲリラ戦に徹しているからだ。

空爆に反対した少数派を切り捨てる空気

 カナダのトルドー首相は効果が定かではないとしてIS空爆からの撤退を表明している。一方、第二次大戦以来、米国との「特別な関係」を誇ってきた英国のキャメロン首相は、シリアでのIS空爆に参加できるよう慎重に機を見計らってきた。

 2年前の8月にシリアのアサド政権が化学兵器を使用した疑いが濃厚となった際、キャメロン首相は予想外の否決にあった。当事国の要請がないままイラクやアフガニスタンに軍事介入して、英国はおびただしい血を流した。再度、否決となると、有志連合だけでなく、ロシアを含めたIS包囲網の構築が破綻する恐れがある。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル一時155円台前半、介入の兆候を

ワールド

英独首脳、自走砲の共同開発で合意 ウクライナ支援に

ビジネス

米国株式市場=S&P上昇、好業績に期待 利回り上昇

ワールド

バイデン氏、建設労組の支持獲得 再選へ追い風
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 7

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 8

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story