コラム

ロシア機墜落「イスラム国」関与説の信ぴょう性

2015年11月12日(木)16時30分

生々しい残骸に覆われたシナイ半島のロシア機墜落現場(11月1日) Mohamed Abd El Ghany-REUTERS

 ロシア旅客機が10月31日、エジプト・シナイ半島で墜落、子供を含むロシア人ら乗員乗客224人が全員死亡した事件は、シリアやイラクを中心に勢力を急激に拡大する過激派組織「イスラム国(IS)」か、それともシナイ半島で活動するIS関連組織「シナイ州」(旧アンサール・バイト・アル・マクディス)の犯行なのか。もし、そうだとすると、シリア情勢だけでなく、世界のテロ対策を一変させるインパクトを持つ。信奉者を含めたIS関与説を積極的に流す英国の情報機関は決定的な証拠を押さえているのだろうか。

 英首相官邸は11月4日、「爆発物が墜落原因である可能性が高いことを懸念している」との声明を出し、墜落機が飛び立ったシナイ半島南部シャルムエルシェイクの空港と英国間の航空便を一時停止した。エジプトの大統領シシは同日夜にロンドン入りし、5日に英首相キャメロンと会談したが、頭越しの発表に不快感をにじませた。エジプトでは2013年7月にモルシ政権(当時)が軍のクーデターで倒れて以来、「シナイ州」がテロを激化させており、ロシア機墜落事件でも直後に犯行声明を出している。

 11月5日、キャメロンは「おそらくテロリストの爆発物だろう」とさらに踏み込み、英外相ハモンドは「シナイ州」による犯行について「相当な可能性がある」と英24時間テレビニュース局で発言したことで世界を驚かせた。複数の米メディアは4日、米情報機関の話として「墜落原因は爆発物」と伝え、CNNは、情報機関が墜落前後の交信を傍受して分析した結果、「イスラム国、あるいは関連組織が機内に爆発物を仕掛けた」とみていることを紹介した。一方、米大統領オバマは5日、「爆発物が機内に仕掛けられた可能性がある」と述べるにとどめている。

当事者でもなイギリス政府がなぜ口を出すのか

 しかし、英国では積極的な情報リークが続く。英大衆紙サンデー・エクスプレス電子版は8日、墜落直後に爆破を祝う通信を英情報機関が傍受したと報じた。ロンドンや英中部バーミンガムの訛りがあることから、英国出身者が関与した疑いがあるとの見方まで伝えた。米国でも下院国土安全保障委員会のマッコール委員長ら共和党議員から「これまでの情報によると、最も考えられるシナリオはISによって爆発装置が機内に仕掛けられたように見受けられる」という発言が相次いだ。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:中国の再利用型無人宇宙船、軍事転用に警戒

ワールド

アングル:トランプ氏なら強制送還急拡大か、AI技術

ビジネス

アングル:ノンアル市場で「金メダル」、コロナビール

ビジネス

為替に関する既存のコミットメントを再確認=G20で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ暗殺未遂
特集:トランプ暗殺未遂
2024年7月30日号(7/23発売)

前アメリカ大統領をかすめた銃弾が11月の大統領選挙と次の世界秩序に与えた衝撃

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理由【勉強法】
  • 2
    BTS・BLACKPINK不在でK-POPは冬の時代へ? アルバム販売が失速、株価半落の大手事務所も
  • 3
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子どもの楽しい遊びアイデア5選
  • 4
    キャサリン妃の「目が泳ぐ」...ジル・バイデン大統領…
  • 5
    地球上の点で発生したCO2が、束になり成長して気象に…
  • 6
    カマラ・ハリスがトランプにとって手ごわい敵である5…
  • 7
    トランプ再選で円高は進むか?
  • 8
    拡散中のハリス副大統領「ぎこちないスピーチ映像」…
  • 9
    中国の「オーバーツーリズム」は桁違い...「万里の長…
  • 10
    「轟く爆音」と立ち上る黒煙...ロシア大規模製油所に…
  • 1
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラニアにキス「避けられる」瞬間 直前には手を取り合う姿も
  • 2
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを入れてしまった母親の後悔 「息子は毎晩お風呂で...」
  • 3
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」、今も生きている可能性
  • 4
    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…
  • 5
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理…
  • 6
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子…
  • 7
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 8
    「失った戦車は3000台超」ロシアの戦車枯渇、旧ソ連…
  • 9
    「宇宙で最もひどい場所」はここ
  • 10
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った猛烈な「森林火災」の炎...逃げ惑う兵士たちの映像
  • 3
    ウクライナ水上ドローン、ロシア国内の「黒海艦隊」基地に突撃...猛烈な「迎撃」受ける緊迫「海戦」映像
  • 4
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 5
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラ…
  • 6
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 7
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを…
  • 8
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」…
  • 9
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「…
  • 10
    「どちらが王妃?」...カミラ王妃の妹が「そっくり過…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story