コラム

元徴用工問題で韓国政府の代位弁済案が浮上、日韓関係は改善されるか

2021年10月18日(月)15時44分

では、なぜ、ソウル中央地裁では大法院と異なる判決を下したのだろうか。裁判官の心の奥底は分からないが、6月の判決文のうち「自由民主主義の価値を共有する日本との関係が毀損されとともに、アメリカとの関係も毀損される」という部分は、判決が北東アジアの安全保障を重視するアメリカを意識したり、アメリカの影響を受けたりしたのではないかと推測される。また、一部のマスコミで報道されたように、日本に対する文大統領の姿勢が柔軟路線に変わったことも影響を与えた可能性がある。

文大統領は今年1月18日、青瓦台の春秋館で開かれた新年記者会見で、「日韓の間には解決すべき懸案がある。輸出規制問題があり、徴用工訴訟問題もある。このような問題を外交的に解決するために両国は多様なチャネルで対話をしている。日韓が懸案について外交的努力をしている最中に慰安婦判決が加わり、率直に言って少し困惑していることが事実である。(中略)慰安婦判決の場合は、2015年に日韓政府の間で慰安府問題に対する合意があった。韓国政府はその合意が両国政府間の公式的合意であった事実を認める。このような背景の上で今回(2021年1月8日)判決が出た。被害者のおばあさんらが同意できる解決策を見いだせるよう、日本と協議していく」と述べた。

三菱重工の資産が売却されたら

異なる判決結果が下される中で、韓国中部の大田(テジョン)地方裁判所は9月27日、元徴用工被害者の賠償請求訴訟の判決後に差し押さえられていた三菱重工業の韓国国内にある商標権と特許権を売却し、原告らに賠償することを命じた。三菱重工業がこの判決に対して抗告することは可能であるが、抗告しても大田地裁や大法院で売却命令の確定判決が下されれば、再び商標権と特許権は売却できるようになる。日本政府は売却に強力に反対する姿勢を見せており、もし資産が売却されると日韓関係は今以上冷え込む可能性が高い。菅前総理と文大統領の首脳会談が実現されなかったことも徴用工訴訟問題が大きくかかわっている

しかしながら、韓国国内では実際、日本企業の資産が現金化されることはないという見解が多い。文大統領も1月18日に開かれた新年記者会見で、徴用工問題を言及した際に「強制的に日本企業の資産が現金化されたり、判決が実現されたりすることは日韓両国において好ましくない」と現金化を避けたいとの意向を明らかにした。

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員、亜細亜大学特任准教授を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

タイ自動車生産、3月は前年比-23% ピックアップ

ビジネス

米500社、第1四半期増益率見通し上向く 好決算相

ビジネス

トヨタ、タイでEV試験運用 ピックアップトラック乗

ビジネス

独失業者数、今年は過去10年で最多に 景気低迷で=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 10

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story