コラム

韓国の世代間格差と若者の怒り

2020年09月15日(火)11時35分

次は、386世代と若者世代の間の葛藤だ。386世代とは、1990年代に年齢が30代で、1980年代に大学生活を送り民主化運動にかかわった1960年代に生まれた者を指しており、(30代、80年代、60年代の3,8,6を取って386世代と称する)現在はほぼ50代になったことで、最近では586世代とも呼ばれている。若者世代や高齢者世代の葛藤が主に意識の差による葛藤だとすると、386世代と若者世代の間の葛藤は経済的要因に起因する。
 
現在、韓国社会の中心とも言える386世代は、政治や経済に与える影響力においてX世代やY世代を大きく上回っている。1960年代生まれの386世代は、1970年末〜1980年代に大学に入学した。当時の高校卒業生の大学進学率は3割を少し上回っていたので、約7割が大学に進学する今とは大学生の存在感が大きく異なる。彼らは社会のエリートとして評価され、キャンパスのロマンスを楽しみ、マッコリを飲みながら軍事政権を批判し民主化について語った。

386世代は学業より学生運動や民主化運動に重きを置いたにもかかわらず、大きな問題なく労働市場に加わることができた。当時の韓国経済が絶好調だったからだ。1985年からアジア通貨危機が発生した1997年までの経済成長率は平均9.1%に達し、失業率は完全雇用ともと言える2%台にとどまっていた。

だが、1997年に起きたアジア通貨危機により状況は急変した。ウォンが暴落し、金利が上昇すると企業倒産が相次き、街には失業者が溢れた。1998年の経済成長率は統計が始まってから最も低いマイナス0.51%を記録し、1997年には2.6%だった失業率は1999年2月には8.8%に、さらに若者失業率は14.5%まで上昇した。

労働の質と量の改善を

アジア通貨危機に見舞われた韓国政府はIMFから融資を受ける条件として、企業、金融、公共部門、労働市場の4部門における構造改革を行った。1998年以降、IMF の指導の下で諸改革を進めたことにより、韓国経済は少しずつ回復し始めたものの、企業は危機管理体制を緩めず、正規職の代わりに非正規職を増やす雇用対策に切り替えた。その影響は、当時労働市場に進出し始めたX世代やその後のY世代、そして最近のZ世代まで及んでいる。2019年時点の非正規労働者の割合は36.4%に達しており、2015年の4年制大卒者のうち、正規職として就職した人の割合は52.5%に過ぎない。卒業すれば正規職が当たり前だった386世代とは状況が大きく変わっている。その結果、若者世代の多くが恋愛、結婚、出産、人間関係(就職)、マイホーム、夢、希望を諦めている。

韓国社会において世代間の葛藤は、「コンデ」の存在や世代間の意識の差が一つの原因かも知れないが、最も大きい部分は経済的要因に起因している。そして、経済的要因、つまり、経済的格差に影響を与えるのが「労働の質と量」である。従って、今後世代間の格差や葛藤を解消するためには労働の量や質を改善するための政策を持続的に実施する必要がある。また、世代内の不公正により格差や鬱憤が発生しないように慎重な対策を講じるべきである。安心して働ける社会や公正な社会を実現することこそが世代間と世代内の格差や葛藤を解決する近道であることを忘れてはならない。

※本稿の詳細は、現代韓国朝鮮学会の『現代韓国朝鮮研究』第20号に近日公開される予定である。

プロフィール

金 明中(ニッセイ基礎研究所)

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所客員研究員、日本女子大学人間社会学部・大学院人間社会研究科非常勤講師を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。

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