コラム

韓国ではなぜ新型コロナ第2波のリスクが高まったのか

2020年06月05日(金)15時25分

極力人との接触を避けるため、韓国のバーに登場した店員ロボット(6月3日) Kim Hong-Ji- REUTERS

<一時は感染者をゼロにまで抑え込み、「K防疫」のレベルの高さを世界から称賛された韓国が、再度の感染爆発が警戒される事態になっている>

新型コロナウイルス再発の大きな原因は「気の緩み」

新型コロナウイルス対策として検査、隔離、情報公開を徹底している韓国で新型コロナウイルス感染の第2波への警戒が広がっている。5月6日にソウルの代表的な繁華街である梨泰院(イテウォン)にあるナイトクラブで初の感染者が発生してから次々と感染者が見つかり、6月1日時点での感染者数は270人まで増加した。また、5月末に京畿道富川(プチョン)の物流センターで発生した集団感染で、100人以上の感染者が確認された。4月30日にようやく国内の感染者数が0人になり、5月6日から防疫レベルをそれまでの「社会的距離の確保」から「生活防疫」(生活の中での距離確保)に緩和したその日に事態は急変し、感染の再流行が懸念されている。

今回、梨泰院のクラブや富川の物流センターで起きた集団感染の大きな原因は「気の緩み」である。クラブやカラオケでは3密が起きやすく、換気や消毒、社会的距離の確保など感染防止対策を徹底しないと集団感染の危険性が高い。しかしながら今回、集団感染が起きた複数のクラブではマスクの着用や社会的距離の確保など感染防止対策が講じられていなかった。梨泰院のクラブ発の集団感染のスーパー・スプレッダーになった20代男性もマスクを使わずクラブを利用したことが確認された。さらに、約5500人のクラブ利用者のうち2000人ほどが虚偽の連絡先を記載したため、連絡がとれず現在も多くの利用者に対する検査が行われていない状況である。

韓国政府は人々の移動やビジネス活動に対する厳しい制限をせず、徹底的に検査を行い感染者を発見・隔離することで感染の拡大を抑えてきた。そのために感染者のスマートフォンやクレジットカードの使用履歴、監視カメラなどの情報が利用された。しかしながら今回、集団感染が発生した梨泰院のクラブの一部が同性愛者向けの店であると知られたことから、利用客たちが名乗り出ず、検査も受けておらず、防疫当局を困らせている。韓国では性的マイノリティーに対する偏見が強いので、同性愛者であることがわかると差別や非難の標的になりやすい。

富川の物流センターの場合は、パートやアルバイトを増やしたにも関わらず感染防止対策がお粗末だったことが集団感染の原因となった。日本と同じく韓国でも、感染防止のために外出の自粛や在宅勤務が奨励された。その影響でインターネットショッピングの利用者が増え、物流センターの業務量は急増し、人手不足になってパートやアルバイトを増やした。その結果が「3密」の環境だった。感染防止対策も不徹底で、従業員がマスクを着用しなくても管理者は注意をせず、食堂でも密集して食事をした。人々の間にも「気の緩み」が発生していたのである。

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所客員研究員、日本女子大学人間社会学部・大学院人間社会研究科非常勤講師を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ヘッジファンド、銀行株売り 消費財に買い集まる=ゴ

ワールド

訂正-スペインで猛暑による死者1180人、昨年の1

ワールド

米金利1%以下に引き下げるべき、トランプ氏 ほぼ連

ワールド

トランプ氏、通商交渉に前向き姿勢 「 EU当局者が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中にまさかの居眠り...その姿がばっちり撮られた大物セレブとは?
  • 2
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機」に襲撃されたキーウ、大爆発の瞬間を捉えた「衝撃映像」
  • 3
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別「年収ランキング」を発表
  • 4
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    【クイズ】次のうち、生物学的に「本当に存在する」…
  • 7
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 10
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 9
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 10
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story