コラム

なぜ、韓国政府はGSOMIAを破棄したのだろうか?

2019年08月27日(火)17時50分

おわりに

日韓の経済対立は、韓国経済ほどではないものの日本経済にもマイナスの影響を与えるだろう。韓国から日本への観光客は2018年に約754万人で2017年に比べて5.6%も増加したものの、最近の一連の出来事により韓国からの観光客は急減した。

その結果、韓国と日本の地方空港を結ぶ路線の運休や減便が相次いでいる。韓国からの観光客が多い九州を中心とする地方の打撃は大きい。日韓関係が悪化するなか、大分県別府市を訪れる韓国人の入場者数は前年同月より4割ほど減っている4。日本政府観光局によると、7月の訪日観光客は全体で5.6%増(前年同月比)だったが、韓国からは7.6%減だった。旅行大手「JTB」によると、日本国内の宿泊予約がハングルでできる同社のウェブサイトでは、8月の個人予約が前年同月比で約7割減った5。このままだと韓国だけではなく日本経済も打撃を受けることになる。

現在の日韓関係は確かに厳しい状況である。お互いの良いところを褒めるよりは、悪いところを非難し、お互いの痛いところを触れすぎている。現在の日韓の対立はまるで引くに引けないチキンゲームとなっている。このままだと正面衝突になり、お互いに多くのものを失いかねない。将来のことを考えると誰かがハンドルを切ることが望ましく、その役割は専門家や民間が担当することがいいだろう。

まずは、日韓首脳の下に専門家による協議会を設けて、問題解決のための対話を続け、信頼関係を回復する必要がある。また、企業や社会団体、そして学会や各種団体などもそれぞれの分野で今までの交流を続けながら、問題解決のために努力を行うべきであろう。このような努力の継続により、日韓の信頼関係は少しずつでありながら、改善の道を歩み始めていくものと思われる。

――――――――
4 NHKニュース 2019年8月21日から引用。
5 朝日新聞 2019年8月24日朝刊から引用。

*この記事は、ニッセイ基礎研究所レポートからの転載です。

20190903issue_cover200.jpg
※9月3日号(8月27日発売)は、「中国電脳攻撃」特集。台湾、香港、チベット......。サイバー空間を思いのままに操り、各地で選挙干渉や情報操作を繰り返す中国。SNSを使った攻撃の手口とは? 次に狙われる標的はどこか? そして、急成長する中国の民間軍事会社とは?

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所客員研究員、日本女子大学人間社会学部・大学院人間社会研究科非常勤講師を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン氏18日訪朝、24年ぶり 安保パートナーシ

ワールド

再送ロシア、NATO核配備巡る発言批判 「緊張拡大

ワールド

中国のEU産豚肉調査、欧州委「懸念せず」 スペイン

ビジネス

米バークシャー、中国BYD株を再び売却 3980万
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:サウジの矜持
特集:サウジの矜持
2024年6月25日号(6/18発売)

脱石油を目指す中東の雄サウジアラビア。米中ロを手玉に取る王国が描く「次の世界」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    新型コロナ変異株「フラート」が感染拡大中...今夏は「爆発と強さ」に要警戒

  • 2

    森に潜んだロシア部隊を発見、HIMARS精密攻撃で大爆発...死者60人以上の攻撃「映像」ウクライナ公開

  • 3

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 4

    中国「浮かぶ原子炉」が南シナ海で波紋を呼ぶ...中国…

  • 5

    水上スキーに巨大サメが繰り返し「体当たり」の恐怖…

  • 6

    なぜ日本語は漢字を捨てなかったのか?...『万葉集』…

  • 7

    中国経済がはまる「日本型デフレ」の泥沼...消費心理…

  • 8

    ジョージアはロシアに飲み込まれるのか

  • 9

    この「自爆ドローンでロシア軍撃破の瞬間」映像が「…

  • 10

    長距離ドローンがロシア奥深くに「退避」していたSU-…

  • 1

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 2

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車の猛攻で、ロシア兵が装甲車から「転げ落ちる」瞬間

  • 3

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思っていた...」55歳退官で年収750万円が200万円に激減の現実

  • 4

    米フロリダ州で「サメの襲撃が相次ぎ」15歳少女ら3名…

  • 5

    毎日1分間「体幹をしぼるだけ」で、脂肪を燃やして「…

  • 6

    この「自爆ドローンでロシア軍撃破の瞬間」映像が「…

  • 7

    カカオに新たな可能性、血糖値の上昇を抑える「チョ…

  • 8

    「クマvsワニ」を川で激撮...衝撃の対決シーンも一瞬…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃が妊娠発表後、初めて公の場…

  • 10

    森に潜んだロシア部隊を発見、HIMARS精密攻撃で大爆…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 4

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「…

  • 5

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…

  • 6

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 7

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 8

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思ってい…

  • 9

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 10

    我先にと逃げ出す兵士たち...ブラッドレー歩兵戦闘車…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story