コラム

文在寅政府の手厚い雇用・福祉政策は絵に描いた餅 財源なくして政策なし

2019年07月31日(水)11時50分

韓国政府の 2019 年予算案の概要

korea_budget.jpg

出所:韓国政府(2019)「2019 年予算案の主な特徴」から筆者作成

韓国における2017年の高齢化率は14.2%で、日本の高齢化率27.7%を大きく下回っているものの、一般会計や福祉関連予算の増加率は日本を大きく上回っている。日本に比べて公的社会保険が給付面において成熟しておらず、公的社会保険の保障率が低いことがその理由ではないかと思われる。

つまり、公的社会保険により保護されていない人々を国が国の財源により保護しようとしていることや、所得主導成長を目指し、社会保障政策を拡大したことが日本より一般会計総額や福祉関連予算の増加率が高い理由であるだろう。

社会保障や税の一体改革の検討を

韓国政府は予算を増やしてでも、貧困や格差、若者の就職難、出生率の低下という社会問題を解決したいところであるものの、その効果がなかなか出ないことに非常に苦慮している。

しかしながら、政府予算が無駄に使われたケースも少なくない。最近、韓国で起きた私立幼稚園と老人療養施設の会計不正などがそのいい例である。従って、今後は予算の拡大のみならず、予算使用の監視体制を強化する必要がある。また、政府予算が短期的な効果を生み出す短期的な政策だけではなく、より長期的で持続可能な制度の実施に使われ、韓国社会の根本的な問題が解決できるように知恵を絞るべきである。

さらに、増え続ける予算を確保するための議論も慎重に行わなければならない。韓国政府は2018年時点で39.5%である債務残高の対GDP比を今後も40%水準で維持することを計画しているものの、急速な少子高齢化の進展や所得主導政策の実施は今後より多くの財源を必要とするに違いない。

従って、今後安定的な税収の増加を確保しないと、財政赤字やそれを埋め合わせるための国債発行額は増え続け、所得主導政策の実施を妨げる要因になるだろう。今こそが、社会保障や税の一体改革が必要な時期であることを忘れてはならない。

※当記事は「急速に少子高齢化が進む韓国の社会保障政策(1)所得主導成長論に基づく拡大政策を推進 社会保障や税の一体改革の議論が必要」時事通信社『厚生福祉』2019年7月9日 第6501号・合併号を加筆修正したものである。

20190806issue_cover200.jpg
※8月6日号(7月30日発売)は、「ハードブレグジット:衝撃に備えよ」特集。ボリス・ジョンソンとは何者か。奇行と暴言と変な髪型で有名なこの英新首相は、どれだけ危険なのか。合意なきEU離脱の不確実性とリスク。日本企業には好機になるかもしれない。

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所客員研究員、日本女子大学人間社会学部・大学院人間社会研究科非常勤講師を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ホーム・デポ、売上高が予想以上に減少 高額商品が

ワールド

バイデン大統領、対中関税を大幅引き上げ EVや半導

ビジネス

情報BOX:パウエル米FRB議長の発言要旨

ワールド

バイデン政権の対中関税引き上げ不十分、拡大すべき=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プーチンの危険なハルキウ攻勢

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 10

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story