コラム

年金改革法で「厚生年金が損をする」は本当か...実は、ずっと割を食ってきた「あの世代」を救う効果が

2025年06月26日(木)18時13分

「厚生年金だけが損をする」は本当か?

だが、一部の国民は厚生年金の年金が減り、国民年金のみの受給者にそのお金が回ると誤解している。

確かに国民年金だけの加入者がより有利であることは間違いないが、日本の公的年金制度は1985年の制度改正によって、全国民共通の基礎年金制度が創設されており、国民年金と厚生年金は事実上、統合されている。基礎年金底上げの原資として厚生年金積立金の一部を活用することは相応の合理性があると考えてよい。

基礎年金の底上げに対して、これだけの異論が出るのは、日本の年金制度がつぎはぎだらけの構造になっており、明確な方向性が見えにくくなっていることが大きく影響している。

本来、基礎年金という形で最低限度の年金を確保するのであれば、河野太郎氏ら一部の与党政治家が主張するように、基礎年金部分については全額税金を使い、保険料を徴収することなく一定金額の年金給付を保証するやり方のほうが趣旨に合っている。

しかし、基礎年金部分を税方式にすれば、当該部分の保険料はなくなるものの、消費増税は避けられない。政府・与党は、この議論から逃げ続けてきたといってよい。税方式にせず、現行制度のまま基礎年金の底上げを図るのであれば、結果として厚生年金の積立金を流用する形が最も現実的ということになるだろう。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

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