コラム

いくら太陽光発電所を作っても、日本の脱炭素政策が成功しない訳

2021年07月29日(木)17時06分
太陽光発電所

ISSEI KATOーREUTERS

<経産省の試算で、ついに太陽光発電のコストが原子力を抜いて最安となったが、これから重要となるのはむしろ風力だ>

最も安価とされていた原子力発電に代わって、太陽光発電のコストが最安という試算結果を経済産業省が公表した。ようやく世界標準の認識に追い付いた形だが、中身をよく見るとまだ課題は多い。

試算では太陽光のコストだけが著しく安くなっているが、太陽光発電所ばかり建設することには弊害がある。洋上風力発電のコストを欧米並みに下げなければ日本の脱炭素政策はうまくいかないだろう。

経済産業省は2021年7月12日、30年時点の電源別発電コストの試算を発表した。それによると大規模太陽光発電のコストは1キロワット時当たり8円台前半~11円台後半となり、最も安いエネルギーとなった。15年の試算では太陽光は12.7~15.6円だったので大幅に安くなっている。

再生可能エネルギーの発電コストが圧倒的に安いことは世界の常識であり、そうであればこそ各国は再生可能エネルギーの導入を加速している。だが、日本ではどういうわけか再生可能エネルギーの発電コストは高いと試算され続けてきた。

太陽光についてはようやく世界標準に追い付いたが、洋上風力は26円台前半とまだ高い。海外では洋上風力の発電コストは8円台まで下がっていることを考えると、この差はあまりにも大きい。

電力需要や天候の精密な分析が必要

とりあえず太陽光だけでも世界標準に近づいたことは一歩前進だが、だからといって太陽光発電所ばかり建設することはやめたほうがよい。太陽光は昼間にしか発電できないが、電力需要も圧倒的に昼に集中するので、太陽光の場合、電力需要と発電量の動きは基本的に一致する。

だが夜間にはほぼゼロになってしまうことや、天候が悪いときには出力が落ちるという問題があるため、太陽光単独では弊害が多くなる。諸外国では電力ピークや天候などを精緻に分析し、太陽光と風力を最適な割合でミックスさせる方法がベストであるとの見解で一致している。

天候不順時に電力が足りなくなる問題はコストでカバーできる。太陽光も風力も本来は圧倒的な低コストなので、全国的に雲が多く、風も吹かないという最悪のケースを想定し、そのときでも最低限の電力を発電できるよう多数の発電所を建設しておけばよい。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

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