コラム

「消費減税」論者は注目すべし 菅首相の通話料値下げで分かること

2020年10月01日(木)12時12分

metamorworks-iStock

<菅首相が求める携帯電話料金の値下げ。この施策が消費減税のシミュレーションになり得る理由とは>

菅義偉首相が携帯電話会社に対して通信料金の引き下げを強く求めている。総務大臣に就任した武田良太氏は「一刻も早く結論を出したい」と発言するなど、政権の本気度は高い。

電波という公共財を利用しているとはいえ、れっきとした民間企業である携帯電話会社の経営に政府が介入することには賛否両論ある。本稿ではその是非は取り上げないが、筆者は別の意味でこの政策に注目している。それは消費増税との関連性である。

菅氏は値下げの具体的な目安として「4割程度値下げできる余地がある」と発言した。携帯電話会社の売上高は基本的に通信料金で成り立っているので、乱暴に言ってしまうと通話料を4割引き下げれば、各社の売上高が4割減る。

これは経営の屋台骨を揺るがす話なので、現実に4割も引き下げるのは難しいだろう。だが仮にこの引き下げが実現した場合、日本経済へのインパクトは大きい。

総務省の家計調査によると2019年における1世帯当たりの年間平均通信料金は約12万7000円だった。これは2人以上の世帯の数字なので、全ての世帯を対象にすればもう少し安くなる。仮に1世帯当たり年間10万円を通信料金に支出すると仮定した場合、日本全体では約6兆円もの金額となる。

それが4割削減されると、家計には2.4兆円の余剰資金が生まれる計算だ。一部は貯蓄されるだろうが、残りは他の消費に回る可能性が高く、携帯電話会社の業績はともかくとして、相応の消費拡大効果をもたらすのは間違いない。

菅首相は減税には否定的

ここで想起されるのが消費減税に関する議論である。国内ではコロナ不況への対策として消費減税を求める声が大きくなっている。だが菅氏はむしろ消費増税に言及するなど減税には否定的だ。社会保障の財源を確保できないことや、減税は根本的な景気拡大策にならないと菅氏が考えていることなどが理由のようだ。

ちなみに消費税を1%減税すると家計には2兆~2.5兆円の余剰資金が生まれる。消費減税を強く主張する人は、増加した家計の可処分所得が消費を後押しするとしているが、この金額は通信料金を4割引き下げた場合とほぼ同じになる。つまり通信料金を4割値下げできれば、消費税を1%減税したことに近い効果が得られるのだ。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米ネクステラ、グーグルやメタと提携強化 電力需要増

ワールド

英仏独首脳、ゼレンスキー氏と会談 「重要局面」での

ビジネス

パラマウント、ワーナーに敵対的買収提案 1株当たり

ワールド

FRB議長人事、大統領には良い選択肢が複数ある=米
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...かつて偶然、撮影されていた「緊張の瞬間」
  • 4
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 7
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 8
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 9
    死刑は「やむを得ない」と言う人は、おそらく本当の…
  • 10
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story