コラム

現金主義は壮大な無駄遣い――キャッシュレスは日本経済を救う?

2019年12月19日(木)11時30分

日本でもキャッシュレス化は浸透しつつある takasuu-iStock

ヤフーとLINEの経営統合が決まり、スマホ決済が急速に普及する可能性が高まってきた。政府は何としてもキャッシュレス化を促進したい意向だが、経済にはどのような影響があるだろうか。

ヤフーは親会社のソフトバンクと共同でPayPayというスマホ決済サービスを提供しており、一方のLINEはLINE Payという同様のサービスを展開中だ。PayPayは大胆な販促活動で先行し、これをLINE Payが追う図式だったが、有力な2社の経営統合によって、この分野で圧倒的なシェアになるのはほぼ確実である。

日本国内に流通する紙幣と硬貨の総額はGDP(国内総生産)の2割を超えているが、これは他の先進国と比較して高い。アメリカや欧州では、コンビニの買い物にもクレジットカードや電子マネーを使う人が多いので、街中で現金を見掛けることはほとんどなくなっている。少なくとも高額紙幣については、完全に姿を消したといってよいだろう。

日本ではまだまだ現金を好む人が多いが、ヤフー・LINE連合という強力な事業者が出てきたことでキャッシュレスの比率が上昇する可能性が高まっている。

欧米では主に利便性という面でキャッシュレス化が進んできたが、日本は少々事情が異なる。政府が躍起になってキャッシュレス化を推進しているのは、銀行の経営が苦しくなっていることに加えて、極端な人手不足と景気低迷によって現金決済制度の維持が難しくなっているからである。

現金主義社会の維持費

銀行は量的緩和策による低金利の影響で利ざやが稼げなくなっており、メガバンク各行は前代未聞の人員削減に追い込まれている。現金をくまなく流通させるためには全国にATMを設置する必要があり、金融機関はその維持と現金輸送に年間約2兆円ものコストをかけてきた。

だが、銀行の経営体力低下によってそのコストが大きな負担となりつつある。「日本は現金のほうが便利」なのでキャッシュレス化が進まないという意見をよく耳にするが、実は便利さのために途方もない金額を費やしていたというのが真実である。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、太平洋島しょ地域で基地建設望まず 在フィジー

ビジネス

米、GE製ジェットエンジン輸出規制を解除 中国CO

ワールド

トランプ氏、アイオワ州訪問 建国250周年式典開始

ビジネス

米ステーブルコイン、世界決済システムを不安定化させ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 6
    ワニに襲われた直後の「現場映像」に緊張走る...捜索…
  • 7
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 8
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 9
    吉野家がぶちあげた「ラーメンで世界一」は茨の道だ…
  • 10
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 3
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 6
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギ…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 10
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 7
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 8
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 9
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 10
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story