コラム

高度移民だけの受け入れは可能なのか? 「魅力のない国」日本に足りないもの

2019年06月18日(火)15時30分

トランプ氏の発言は選挙対策

つまり家族だからといって無条件に移民を受け入れるのではなく、高学歴者など米国経済に貢献する人材のみを受け入れる方針と考えてよいだろう。

今回の案について、野党である民主党は反発しているので、現時点での立法化は困難と考えられる。それにもかかわらずトランプ氏がこうしたプランを打ち出したのは、2020年に行われる大統領選挙を意識しているからである。

次の選挙で再選を狙うトランプ氏としては、可能な限り支持層を拡大しておきたい。トランプ氏のコアな支持層は、そもそも移民の受け入れに対して否定的であり、今回の方針はコアな支持層とは相容れない部分がある。だが、移民に対して否定的ではないものの、選択して受け入れた方がよいと考えると人は一定数存在しており、こうした人たちは、場合によってはトランプ氏の支持者になる可能性がある。選挙を控えるトランプ氏としては、可能な限り、有権者を取り込んでおきたいところだろう。

移民を受け入れる際、高学歴者を優先するという国は意外と多い。実は日本も、安倍政権が本格的な移民政策に舵を切るまでは、高度人材に限って受け入れるという方針だった。しかも日本の場合、ビザの取得はそれほど難しくなく、永住に関する明確な判断基準もなかったことから、長期にわたって日本に住み、日本社会に定着している外国人は、比較的に容易に永住権を取得できていた。

大量の移民を受け入れる以上、わたしたちには覚悟が必要

つまり、日本という国はもともと選択的に移民を受け入れる国であり、永住権の取得もそれほど困難でなかったということになる。移民の国というイメージがあるにもかかわらず、もともとも移住について厳しい制限がある米国とは対照的に、閉鎖的なイメージがある一方で、現実の制度はそれほど厳しくなかったのである。

これは何を意味しているだろうか。

日本において移民が政治問題になっていなかったのは、日本に移住を希望する外国人がそれほど多くなかったからという理由に尽きる。一方、米国は世界中の人が移住を希望するので、すでに米国で生活している米国人との軋轢が常に発生する。オーストラリアやニュージーランドもかなり選択的に移民を受け入れているが、それができるのも両国への移住を希望する人が多いからである。

こうした国々が、世界中から人を吸い寄せているのは、経済的な豊かさに加え、社会が外国人に対して寛容であり、労働市場がオープンだからである。日本は制度上、移住は容易だったが、社会の豊かさ、寛容さ、オープン度合いという点で外国人にとって魅力的ではなく、結果的に移民の問題は発生していなかった。

これは制度の問題ではなく、日本社会そのものに起因する話なので、一部から浮上している高度人材に限定して移民を受け入れるという話はそう簡単には実現しない可能性が高い。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロ、和平交渉で強硬姿勢示唆 「大統領公邸攻撃」でウ

ワールド

ウクライナ支援「有志連合」、1月初めに会合=ゼレン

ワールド

プーチン氏公邸攻撃巡るロの主張、裏付ける証拠なし=

ワールド

米軍のウクライナ駐留の可能性協議、「安全保証」の一
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 5
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 6
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 7
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 8
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 9
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 10
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story