コラム

本気で考える、日本の労働生産性はなぜ万年ビリなのか?

2019年04月02日(火)15時25分

消費経済へのシフトに失敗したのが原因?

つまり日本企業が行っているビジネスは、諸外国と比較すると付加価値が低く、労働集約的と言い換えることができる。では日本企業はなぜそのようなビジネスしかできないのだろうか。その理由を探るためには、生産性が長期的にどう推移してきたのか知る必要がある。

図2は日本と米国の労働生産性の推移を1970年から比較したものである。労働生産性はドルベースで比較するが、現実の為替レートは相場に左右されるのでかなりの上下変動が発生する。このため、生産性について分析する際には購買力平価を用いてドル換算するのが一般的であり、この分析も購買力平価による為替レートを適用している(使用するデータなどにより冒頭で紹介した日本生産性本部の結果とは若干の差違が生じている)。

zu002.png

グラフを見ると米国と日本の労働生産性には大きな差があり、今も同じであることが分かる。だが両国の生産性の差は時代によって違っている。灰色のグラフは、日本の生産性が米国の何割だったのかを示したものだが、1970年代と80年代は日本と米国の生産性の差が縮まっていた。1970年には米国の5割以下だったにもかかわらず80年代後半には米国の6割まで上昇している。

ところが1990年代以降は、多少の上下変動はあるものの、ずっと米国の6割程度のままで推移している。

グラフはちょうど1990年前後を境に傾きが変わっているが、ここはバブル崩壊の時期と重なる。さらに細かく分析すると、バブル経済が絶頂だった1980年代後半に生産性の差が急速に縮まっていることが分かる。つまり、バブル期において生産性の差が縮小し、バブル崩壊とともに日本の生産性が伸び悩んだということだが、一連の状況から何が分かるだろうか。ヒントになるのは製造業の国際的な競争力低下と消費経済へのシフトである。

消費経済へのシフトにも、高付加価値型製造業へのシフトにも失敗した

1990年代に日本企業の国際競争力低下が顕著になったことは多くの論者が指摘しており、これに異論を挟む人は少数派だろう。先進国の多くは工業国として成長するが、その後、後発国に追いつかれ、国際競争力が低下するという流れになることは歴史が証明している。日本も例外ではなく、そのタイミングがちょうど90年代だったと考えれば辻褄が合う。

ここで先進国には2つの選択肢が出てくる。ひとつは米国のように消費を中心に経済を発展させる、いわゆる内需経済にシフトするというやり方、もうひとつはドイツのように極めて付加価値の高い工業に特化するというやり方である。

日本は1980年代に「内需拡大」が叫ばれ、米国型消費経済への移行が模索された。だが一連の政策はバブルを誘発し、その後始末に失敗したことから、失われた30年のきっかけを作ってしまった。だがバブル期にだけ、生産性格差が大幅に縮小していたという事実は、消費経済への移行が生産性向上に効果があることを示すひとつの材料といってよい。

日本は消費経済への移行に失敗したわけだが、工業国としての生き残りもうまくいかなかった。ドイツは競争力を失った分野から次々と撤退し、医療器機やバイオ、重電など、極めて付加価値の高い分野にリソースを集中した。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

BofAとゴールドマン、S&P500年末目標を引き

ワールド

タリバン最高指導者ら2人に逮捕状、ICC 女性迫害

ワールド

習主席、新産業発展とともに重工業維持の必要性改めて

ワールド

米の銅追加関税、最大供給国チリは事態注視 「内容理
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    「ヒラリーに似すぎ」なトランプ像...ディズニー・ワールドの大統領人形が遂に「作り直し」に、比較写真にSNS爆笑
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    自由都市・香港から抗議の声が消えた...入港した中国…
  • 7
    トランプ、日本に25%の関税...交渉期限は8月1日まで…
  • 8
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 9
    「けしからん」の応酬が参政党躍進の主因に? 既成…
  • 10
    人種から体型、言語まで...実は『ハリー・ポッター』…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 3
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸せ映像に「それどころじゃない光景」が映り込んでしまう
  • 4
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 5
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 6
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 7
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 8
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 9
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 10
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 7
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story