コラム

ウクライナ侵攻でナポレオンの末路を歩み始めたプーチン

2022年03月03日(木)18時00分

プーチンのエルバ島は北方領土? Thibault Camus/Pool via REUTERS

<時代錯誤の野心を見せたロシアは200年前に拡張主義に走り没落した英雄に重なる>

2月24 日、ロシアはついにウクライナに武力侵攻した。「ソ連帝国」の心臓部だったウクライナは絶対NATOに渡さない、というわけだ。

だが、かつてオスマン帝国だったトルコが旧領土であるクリミアに同じことをしたらロシアはどう思うだろう。第2次大戦後は民族自決が世界の習い。ロシアがウクライナにしたことは、時代錯誤なのだ。

2月15日、ロシアの知識人ドミトリ・トレーニンは、こう記している。「30年前ロシアは周辺からの退却を始めたが、その時代は終わった。国益上、必要な箇所では、拡張に訴える政策に転換したのだ」と。

そのとおり。だがロシアはそれでやっていけるのか? やりすぎは失敗のもと。ナポレオンは約200年前、周辺諸国の圧力に抗して攻勢に出たものの失敗し、配下の将軍たちに詰め腹を切らされた。ロシアはこれから、ウクライナ侵攻の成果を維持するためにかなりの兵力をこの方面に貼り付けなければならない。

ロシアの地上軍は総計約34万人。そのうち、かなりの兵士は実戦では使い物にならない上に、既に国外に「貼り付いている」者も多い。タジキスタンとアルメニアの基地に総計1万弱。ベラルーシはこれまでロシア軍の常駐を認めてこなかったが、今回は約3万人が貼り付いて離れる気配がない。

そしてロシアが今回のように武力行使の結果、「独立」にお墨付きを与えたゾンビ的存在であるジョージアの南オセチア、アブハジア、モルドバの沿ドニエストルにもロシア軍が貼り付く。最近では2020年秋のナゴルノカラバフ戦争を受けて約2000人のロシア「平和維持軍」がアルメニア、アゼルバイジャン両国の間にいる。

さらに今年1月、カザフスタンで起こった暴動鎮圧にロシアが「平和維持軍」約3000人を送ったことは記憶に新しい。さらにさらに、同じ中央アジアのトルクメニスタンでは3月12日に大統領選挙が行われ、現大統領の息子セルダル・ベルディムハメドフに世代交代しようとしている。セルダルはまだ若い上に、地元クラン(閥)の支持に欠ける。

周辺のトルコ、イラン、タリバン勢力、そして天然ガスを独占的に購入する中国の間でもみくちゃにされ、ロシアに支援を要請する局面が来るかもしれない。

カザフスタン北部にはロシア人が集住していて、国内に高まる反ロシア機運を心配している。彼らが独立を宣言して、ロシアに支援を要請したらどうなる? ロシア軍は「引く手あまた」、むしろ足りなくなるかもしれない。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

緩和の出口戦略含め、財政配慮で曲げることはない=内

ワールド

習首席が米へのレアアース輸出に合意、トランプ大統領

ビジネス

アングル:中国製電子たばこに関税直撃、米国への輸入

ワールド

日米関税協議、「一致点見いだせていない」と赤沢氏 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:韓国新大統領
特集:韓国新大統領
2025年6月10日号(6/ 3発売)

出直し大統領選を制する李在明。「政策なきポピュリスト」の多難な前途

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシストの特徴...その見分け方とは?
  • 4
    ペットの居場所に服を置いたら「黄色い点々」がびっ…
  • 5
    猫に育てられたピットブルが「完全に猫化」...ネット…
  • 6
    日本の女子を追い込む、自分は「太り過ぎ」という歪…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 9
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が…
  • 10
    ウクライナが「真珠湾攻撃」決行!ロシア国内に運び…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story