コラム

日本経済は本当に縮小しているのか

2021年12月08日(水)15時50分

ビッグマック指数で比較すれば日本のGDPは6割増し YU CHUN CHRISTOPHER WONGーS3STUDIO/GETTY IMAGES

<物価安を理由に生活水準の低下を嘆く声もあるが、視点を変えれば日本の経済規模は6割増>

この頃よく知人から、「日本は貧しくなりました」というグチを聞く。どうしてかと聞くと、アメリカやヨーロッパのホテル代は日本の3倍くらいするからだと言う。

確かに近年、日本はGDPでアメリカや中国にどんどん差をつけられ、今やドイツに追い抜かされそうだ。だが、それはどうも実感に合わない。2年前アメリカに行って地下鉄の荒れ方に仰天した。「中の上」以上の人の暮らしは日本の上流並みでも、中流以下の暮らしはとても豊かとは言えない。

以前は「ウサギ小屋」とさげすまれていた日本の住宅も、欧米に比べて小ぶりではあるがインテリアは欧米の平均を確実に上回っている。敢えて知人の逆をいけば、欧米の平均より快適なホテルに3分の1の値段で泊まれるのだから、日本人は豊かなのではないか?

だから実際は、生活水準で欧米と差がついたというよりも、この数年は欧米がインフレで日本がデフレ傾向を続けたせいで両者が別の価格世界に住むようになった。そこに最近の過度の円安が油を注いでいる、ということではないか?

2008年のリーマン危機以降の10年で、アメリカのインフレ率は累計27・8%、フランスでも12・2%に達している。これに対して日本は約5%。円の対ドルレートは、約34%下がっている 。

アメリカは金融を大幅に緩和したのでインフレ傾向になった。日本は安倍政権が「異次元緩和」したものの、デフレ傾向は止まらない。なぜか。そこには、日本人は「カネでカネを生む」という投機的な投資を怖がるという基本的な要因がある。

アメリカでは老後への貯金を投資信託で運用する人が過半数おり、信託会社はそのカネを膨らませて「投資」をし、自分でも儲けていく。だからアメリカは金融・保険業がGDPの6・8%を占める。日本ではこれが4・1%で大差はないように見えるが、絶対額では120兆円弱もの差になる。

別の言葉で言えば、アメリカ経済はそれだけ水膨れ(カネ膨れ)しているのだが、そのバブルが破裂しなければリアルな富になる。日本では現状で十分、成長など要らないという声もあるが、経済が成長して歳入が増えないと社会保障や医療の質が落ちるし、自衛隊の装備はそのうち韓国にも抜かれるだろう。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

北・東欧8カ国首脳、EUの防衛強化訴え ロシアは「

ビジネス

米ワーナー、パラマウントの買収案拒否の公算 17日

ビジネス

FRBの追加利下げ、インフレリスク高める可能性=ア

ワールド

トランプ氏支持率39%に低下、経済政策への不満広が
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 8
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 8
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story