コラム

映画『オマールの壁』が映すもの(1)パレスチナのラブストーリーは日本人の物語でもある

2016年05月12日(木)11時45分

kawakami160512-b2.jpg

オマール(右)と幼馴染のタレク(左)、アムジャド(中) 提供:UPLINK

 オマールはタレクとアムジャドにラミの計画を明かして、オマールがタレクをおびき出すふりをして、イスラエル軍を襲撃しようと作戦を練る。ところが、途中でイスラエル秘密警察に踏み込まれて、オマールはまた捕まり、ラミの元に連れていかれる。ラミはオマールがイスラエル軍を罠にかけようとしたことを知っており、「お前は信用できない」と激怒する。しかし、オマールは「もう一度、チャンスをくれ」といって、釈放される。ラミはオマールがナディアと恋人関係にあることを知っていて、「ナディアには秘密がある」と謎をかける。

 オマールが釈放されて、ナディアに会いに行くと、みんながオマールのことをスパイだと思っているといい、自分にも近づかないでくれ、という。オマールはラミが自分とナディアとの関係を知っていることから、アムジャドがナディアのことをラミに話したと疑い、アムジャドに「何を話したのか」と問い詰める。すると、アムジャドは「ナディアを妊娠させた」という。

 アラブ社会の一部であるパレスチナでは、未婚の女性が妊娠すれば、家の恥として、親に殺されかねない。オマールはナディアを救うために、アムジャドとナディアを結婚させようとし、アムジャドを連れて、兄のタレクに掛け合う。激怒したタレクはアムジャドに銃を持ってなぐりかかり、2人はもみ合いになるが銃が暴発し、タレクが死ぬ。オマールはナディアの父親と会って、ナディアとアムジャドの結婚を仲介し、アムジャドには自分が貯金していたお金を渡し、「子供は月足らずで生まれた」ことにするよう忠告して、絶縁を宣言する。

 2年後、オマールはアムジャドとの間で2児の母となったナディアと会う。オマールはナディアに子供について質問し、上の子が兄タレクの死後1年目に生まれたと聞いて、「月足らずで生まれたのではなかったのか」と聞き返す。ナディアは「いいえ、普通に生まれた」と答える。この答えで、アムジャドが「ナディアを妊娠させた」という言葉が嘘だったことを知り、オマールは衝撃を受ける。

 ナディアは2年前のことについて、「私があなたをスパイだと疑ったから、あなたに嫌われたと思った。あなたが私を必要としている時に、あなたを見放した」と謝った。悲痛な表情のオマールはナディアに真相を明かさないものの、「私たちは信じられないことを信じてしまっていた。私もあなたを裏切っていた」という。

『パラダイス・ナウ』の撮影現場で生まれたシナリオ

 アブ・アサド監督がこの映画をつくった背景を知ることができるインタビューが、「フィルム・コメント」誌のウェブサイトにあった。「このシナリオはどのようにして生まれたのか」という質問に、監督はヨルダン川西岸のパレスチナ地区で行った『パラダイス・ナウ』の撮影現場での経験を語っている。

プロフィール

川上泰徳

中東ジャーナリスト。フリーランスとして中東を拠点に活動。1956年生まれ。元朝日新聞記者。大阪外国語大学アラビア語科卒。特派員としてカイロ、エルサレム、バグダッドに駐在。中東報道でボーン・上田記念国際記者賞受賞。著書に『中東の現場を歩く』(合同出版)、『イラク零年』(朝日新聞)、『イスラムを生きる人びと』(岩波書店)、共著『ジャーナリストはなぜ「戦場」へ行くのか』(集英社新書)、『「イスラム国」はテロの元凶ではない』(集英社新書)。最新刊は『シャティーラの記憶――パレスチナ難民キャンプの70年』
ツイッターは @kawakami_yasu

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、サウジ皇太子と会談 F35売却承認 防

ワールド

エプスタイン文書公開法案、米上下院で可決 トランプ

ワールド

米、国境警備隊をルイジアナ・ミシシッピ州に来月派遣

ワールド

米地裁、テキサス州の選挙区割りを一時差し止め 共和
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「日本人ファースト」「オーガニック右翼」というイ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story