コラム

紅茶をこよなく愛するイギリス人の僕がティーバッグ使い回しをやめるまで

2025年04月05日(土)20時35分

もちろん、お金ができたらこれはやめようと思っていた。でも、僕が最初の正規の職に就いたのは日本にいた時で、日本では高品質な紅茶はけっこうな値段がしたのだ。

だから帰省するたびにイングランドから100個のティーバッグを持ち帰って、長く使おうとした......これまでと同じように使い回しで。薄くて渋い3杯目の紅茶を飲むたびに、「コンビニで売ってるひどい紅茶よりはマシ」と、自分に言い聞かせていた。


そして、日々の行動は習慣になり、なんとかこれに慣れてしまったので、やめることもないままだった。時には、再利用しようと置いておいた使用済みティーバッグが、週末に出掛けたりしているうちに3日もたっていて、カビが生えたりしたこともあった。そして、われながら意味がないなと思いながらも「無駄」になってしまったと反省したりした。

ティーバッグの値段はとても安いから、使い回ししなくても済む金銭的な余裕はあったはず。薄くて苦い3杯目を飲みながら、自分を冷笑することさえあった。「ここまでする必要ないのに、ケチだな」

自己弁護すると、僕は筋金入りの守銭奴というわけではない。スーパーのオリジナルブランドの紅茶(安くてまずい)よりずっと高価でずっとおいしい高品質の紅茶を買う(トワイニングやヨークシャーやテトリーのティーバッグ)。でもその高級紅茶を、経済的な合理性のレベルをはるかに超えて、最大限に使い倒すことを続けてきたのだ。

人生の残り時間を考えて

そしてついに、僕は違う考え方をすることにした。僕は以前より紅茶を飲むことが減った。そして以前より裕福になっただけでなく、人生の残り時間も以前より少なくなった。残りの人生で飲む限られた数の紅茶のうちの3分の1をイマイチな味で無駄にするなんて馬鹿らしいじゃないか。自分の限りある生について考えることが、この明白な選択の「助け」になったのは何とも奇妙だ。

というわけで年明けから3カ月がたったが、1回きりでティーバッグを捨てることにもはや抵抗はなくなった。むしろ、「ハハ!僕はそんな人間さ!1杯で1ティーバッグさ!」と、この状況を楽しんでいる。そして僕は、きちんとおいしい3杯目を味わっている。なんて贅沢なんだろう。

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プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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