コラム

イギリス都市部の至る所に......もはやキツネは田園地帯の動物ではない

2024年08月02日(金)18時13分
イギリスのロンドン郊外のカフェのキツネの壁画

ロンドン南西部サービトンのカフェにはこの地域一帯のアイコンであるキツネの壁画が COLIN JOYCE

<日本では住宅街でのクマやシカの出没が盛んにニュースになっているが、ロンドンなどイギリスの都会ではキツネが歩き回るのが当たり前に>

これは「新しいニュース」ではなく、おそらくそんなに重要でもないけれど、僕の生きてきた中で顕著な変化の1つだ――キツネが至る所にいるのだ。

僕が10代のとき、夜の街で何が起こっているのか、というのを映し出した1985年ごろのテレビ番組を見たのが記憶に残っている。

ロンドンで撮影された映像で、カメラがキツネの姿を捉えた。田舎にいる動物だと思っているから驚きでしょうが、実際は都会にもキツネがいるんですよ!との説明が流れた。このあり得なそうな光景をいつしか自分の目で見ることがあるのかな、と思ったことを僕は覚えている。

で、願いはかなった。実際、今の10代の若者に、キツネが夜の街をうろついているよなどと言えば、彼らはいったいどうしてそんな当たり前のことを言うのだろうと不思議に思うだろう。「雨は雲から発生するよ」「ピカッと光ったら雷が鳴るよ」......などと言うようなものだ。

現在、僕はロンドン西部の緑豊かな郊外トゥイッケナムに滞在しているが、キツネの状況は冗談みたいだ。周囲にはたくさんの緑地があり(公園や庭園、河辺など)、人もたくさんいる(つまり食べ物のごみなどもたくさん出る)。これはキツネにとって理想的だ。

日本の住宅街にもクマやシカが出没しているというニュースをよく目にする。キツネは、それのイギリスバージョンだ。

害獣ではないグレーゾーン

フェンスで区切られているために周囲の人間に邪魔されないからか、キツネは線路が好きなようだ。彼らは電車にひかれない技術に長けているみたいだし(車はまた別の問題だ)、キツネがいちばん出歩く可能性が高い夜の時間には電車は止まっている。

彼らはかなり厄介な存在で、庭を掘り起こしたり、糞をしたり、地面に巣を作る鳥を殺したりする。正式に害獣とされてはいないため、グレーゾーンに分類される。

つまり、地方自治体は数を管理したり駆除したりする義務がないため、どう対処するかは個人に委ねられている。また、「保護」されてもいないので、自宅敷地内にいるキツネを殺すことはできるが、都市部でそんなことをしている人は聞いたことがない。いずれにしても、全体の数には影響しないだろう。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ICC、前フィリピン大統領の「麻薬戦争」事案からカ

ワールド

EUの「ドローンの壁」構想、欧州全域に拡大へ=関係

ビジネス

ロシアの石油輸出収入、9月も減少 無人機攻撃で処理

ワールド

イスラエル軍がガザで発砲、少なくとも6人死亡
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 3
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃をめぐる大論争に発展
  • 4
    車道を一人「さまよう男児」、発見した運転手の「勇…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 7
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 8
    連立離脱の公明党が高市自民党に感じた「かつてない…
  • 9
    あなたの言葉遣い、「AI語」になっていませんか?...…
  • 10
    1歳の息子の様子が「何かおかしい...」 母親が動画を…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 10
    トイレ練習中の2歳の娘が「被疑者」に...検察官の女…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story