最新記事
考古学

南米の古代人、キツネをペットとして飼っていた? 人骨と共に埋葬された骨格を発見

Archaeologists Think Ancient South Americans May Have Kept Foxes as Pets

2024年4月15日(月)12時40分
ジェス・トムソン
(写真はイメージです) caroline legg-Flickr

(写真はイメージです) caroline legg-Flickr

<この発見は人が犬と同じようにキツネとも親密な関係にあったことを物語る>

南米の古代人類はキツネをペットとして飼育していた可能性がある――。考古学研究チームがそんな論文を発表した。

【画像】南米の古代人、キツネをペットとして飼っていた? 人骨と共に埋葬された骨格を発見

この発見は、南米アルゼンチンのパタゴニア北西部にある墓地「カニャーダ・セカ」の発掘にさかのぼる。ここではかつて、動物と一緒に埋葬された紀元450年ごろの人骨が複数出土していた。

英王立協会のオープン・サイエンス誌オンライン版に発表された論文によると、墓には大人18人と年少の6人の一族が埋葬されていたほか、犬数匹と、「Dusicyon avus(D. avus)」と呼ばれる絶滅種のキツネ1匹の骨格が見つかった。

これは人が犬と同じようにキツネとも親密な関係にあったことを物語る。さらに、この種のキツネがそれまで考えられていた生息地よりさらに北にも分布していたことも分かった。

研究者は論文にこう記している。「本研究では、古代DNA解析、形態学的検査、安定同位体解析(デルタ13Cおよびデルタ15N)を用い、カニャーダ・セカの後期完新世の埋葬地で発見されたイヌ科動物の分類を再検証した」

「過去の形態学的識別では、これがスジオイヌ属(Lycalopex)に分類されるとしていたが、我々の調査の結果、この個体が絶滅種のキツネであるフォークランドオオカミ属(Dusicyon avus)だったことが確証的に証明された」

論文によると、骨格や遺伝子情報の新たな解析を通じ、この古代人類が絶滅種のキツネと一緒に埋葬されていたことが分かった。イヌ科動物のうち11種は今も南米に生息しているが、フォークランドオオカミ属に分類される2種(D. avusとDusicyon australis)は絶滅した。

古代人類と一緒に埋葬されていたD. avusは中型のキツネのような姿をしていて、体重は10キロ前後。500年ほど前に絶滅したと思われる。

「D. avusの絶滅は、気候変動と人為的影響の増大による地理的分布の減少に起因すると思われる」と論文は解説している。

「南米で紀元前5000年ごろ、家畜犬が先住民によってメソアメリカから持ち込まれ、紀元前700-900年ごろパタゴニアに到来したことで、この2種の交配が起こり、絶滅のさらなる一因となった可能性がある」

人や犬と一緒に墓からこの種のキツネが出土したことは、当時の人類が役に立つ動物、あるいはペットとみなしていたことを物語る。

「人骨との密接な関係や、共通する食事パターンは、これが貴重な存在で、完新世後期、狩猟採集に同伴する仲間あるいはペットだった可能性を示唆する。さらに、この共同埋葬の記録は、過去に記録されていた完新世における狩猟採集民とD. avusの間の象徴的相互関係の延長でもある」

加えて、これまでにD. avusが見つかった場所の中で、カニャーダ・セカは最北に位置していた。

この種のキツネはイヌ科動物の影響で絶滅した可能性があるものの、カニャーダ・セカでの家畜犬との相互関係がD. avusの絶滅につながったわけではないらしい。

「D. avusと飼い犬との相互関係については、もし交配や混合があったとしても、生存可能で繁殖力のある交配種の子孫が存在しないことから、このプロセスはD. avusの絶滅における決定的な要因ではなかったと思われる」と論文は推察している。

「交配が個体群の動態にある程度の影響を及ぼした可能性はある。しかし繁殖力のある子孫がいないことから、絶滅への影響は限定的だったと思われる」

(翻訳:鈴木聖子)

ニューズウィーク日本版 日本時代劇の挑戦
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月9日号(12月2日発売)は「日本時代劇の挑戦」特集。『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』 ……世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』/岡田准一 ロングインタビュー

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

焦点:闇に隠れるパイロットの精神疾患、操縦免許剥奪

ビジネス

ソフトバンクG、米デジタルインフラ投資企業「デジタ

ビジネス

ネットフリックスのワーナー買収、ハリウッドの労組が

ワールド

米、B型肝炎ワクチンの出生時接種推奨を撤回 ケネデ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 5
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 6
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 7
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 8
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 9
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 10
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 7
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 8
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中