コラム

政界を追われたジョンソンの道徳的寓話

2023年06月22日(木)13時05分
ジョンソン元英首相

議員辞職後、自宅近所でジョギング中に報道陣に手を振るジョンソン元英首相 TOBY MELVILLE-REUTERS

<コロナ下の「パーティーゲート」に関わる虚偽答弁疑惑をめぐり、調査報告書が公表される直前に議員辞職したボリス・ジョンソン元英首相は、実績はともかく人格的にすっかり国民から見放された>

ボリス・ジョンソン元英首相はかつて古典を専攻していたから、彼の政治家人生はギリシャ演劇に例えるのがしっくりくる。トップに上り詰めるべく苦闘し、勝利の時に酔うが、当初から付きまとった人格上の欠陥により屈辱的な最後が避けられなくなった──。

今回のジョンソンの議員辞職で明白なのは、第1に本物の政治有力者としてのジョンソンはこれで終わったということ。第2に、彼が失墜したのは政治観や実績というよりその性格のせいだったということだ。彼は自らをルールを超越した存在だと考えていたようで、責任を問われると不当に扱われたように感じていたようだ。

ジョンソン政権時代には、いくつか重要な成果があった。彼は数年来の混乱を収拾してイギリスのEU離脱を実現した。断固としたウクライナ支援を貫いたから、いつの日か彼の銅像がウクライナに立ちかねないくらいだ(確実にイギリスには立たないだろう)。

警察予算増強も誓った(あらゆる階級の保守党支持層に受けのいい政策だ)。イギリスの「社会主義的」医療制度である国民保健サービス(NHS)に予算をつぎ込み、熱心に支援した。言い換えれば、彼は極右的なイメージとは裏腹に、現実主義的で主流派だった。科学と政府が協業したイギリスのコロナワクチン推進は目を見張る成果を上げた。

そんなジョンソンの罪は、ロックダウンのルールを無視した「パーティーゲート」だけにとどまらない。発覚後には平気で否認したし、真偽不明で責任回避的な謝罪に終始した。在任中に警察から罰金を科され、首相退陣を拒否し続けたものの、最後には閣僚らから追い込まれて辞任した。

そして今回、ジョンソンはパーティーゲートでの虚偽答弁の疑いで下院特権委員会の調査報告書が発表される直前の6月9日に、議員辞職した(15日に公表された報告書ではクロと結論付けられた)。

どちらも彼が自ら飛び降りたのではなく、突き落とされた格好だ。それゆえに彼は、賛否両論だった政治家にだってチャンスがあるはずの、引退後の名誉回復さえ望めないだろう。

例えば、ブレグジットで迷走したテリーザ・メイ元首相を素晴らしいリーダーだったと考える人はあまりいないが、涙ながらに辞意表明した彼女は今ではまともな人だったと見られていて、一般議員の1人として立派に務め続けている。

復帰も長老役になる道もない

首相辞任後のメイの評価が回復したとすれば、ジョンソンはと言えば、非難を受け入れず、調査の不正を主張することで、急激に「トランプ的」と見なされつつある。だがこの比較には限界がある。ドナルド・トランプ前米大統領は扇動的な発言を繰り返し、複数の重大犯罪で起訴され、米議会襲撃の扇動で明らかに責任を追及された。ジョンソンとはレベルが違う。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国の輸出規制、不明瞭な点多く影響を精査し対応検討

ワールド

100歳のマハティール元首相、転倒し骨折 数週間入

ビジネス

ゴールドマン、世界のM&A助言で首位 昨年案件総額

ワールド

ベネズエラ、米国に20億ドル相当の原油輸出へ 両国
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AI兵士の新しい戦争
特集:AI兵士の新しい戦争
2026年1月13日号(1/ 6発売)

ヒューマノイド・ロボット「ファントムMK1」がアメリカの戦場と戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 3
    日本も他人事じゃない? デジタル先進国デンマークが「手紙配達」をやめた理由
  • 4
    「見ないで!」お風呂に閉じこもる姉妹...警告を無視…
  • 5
    トランプがベネズエラで大幅に書き換えた「モンロー…
  • 6
    「悪夢だ...」バリ島のホテルのトイレで「まさかの事…
  • 7
    若者の17%が就職できない?...中国の最新統計が示し…
  • 8
    眠る筋力を覚醒させる技術「ブレーシング」とは?...…
  • 9
    衛星画像で見る「消し炭」の軍事施設...ベネズエラで…
  • 10
    砂漠化率77%...中国の「最新技術」はモンゴルの遊牧…
  • 1
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチン、その先は袋小路か
  • 2
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙」は抑止かそれとも無能?
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 4
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 5
    眠る筋力を覚醒させる技術「ブレーシング」とは?...…
  • 6
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 7
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 8
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 9
    アメリカ、中国に台湾圧力停止を求める
  • 10
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story