コラム

僕が見たボリス・ジョンソンの相反する2つの顔

2020年03月05日(木)11時20分

ジョンソンの気取りのない人柄が多くの人を魅了している Matt Dunham/REUTERS

<ジョンソン英首相は、いけ好かない金髪上流階級か、それともエネルギッシュで変わり者の気さくな男か>

ボリス・ジョンソンは歴代のどのイギリス首相よりも僕と年齢が近く、僕たちの人生のコースはちょっとばかり「重なり合って」いる。彼は僕と同じ大学の数年上の先輩で、僕が勤めたのと同じ新聞社で働き、そして僕が生で見たことのある唯一の英首相だ。これまでに2度彼を見たことがあったと思うが、かなり違う印象を抱いた(どちらの機会もジャーナリストとしての仕事で会ったわけではない)。

最初の時は、まだ彼が何者か知らなかったので、本当にジョンソンだったのか90%しか確信が持てない。1987年、僕はジョンソンが当時在学中だったオックスフォード大学ベリオール・カレッジに出願した。カレッジを訪れたある時、人目を引く金髪の男が正門から出てきたのを覚えている。これが記憶に焼き付いているのは、彼を見た瞬間、オックスフォードが「生まれながらの権利」であるかのような、まさに特権的上流階級といった感じのこの男に、何となくムッとしたからだ。

一目で彼が上流階級の出だと察するなんておかしいと思われるかもしれないが、イギリスではそう珍しいことではない。当時、労働者階級の男たちが短髪だった一方で、男性の「ビッグ・ヘア」といえば名門私立学校のお坊ちゃん学生にお決まりのものだった。それに、僕たちイギリス人は階級に関しては第六感が働く。誰かが上流階級か否かは、彼らの所作や外見(おそらく服装)で分かってしまう。

この金髪男の特権的な雰囲気は僕をいら立たせたが、その理由の1つには、僕にとって合格が望み薄なこのベリオールで学生をやっている彼に、嫉妬を感じたということもある(結局、僕はオックスフォードに合格したが、ベリオールではないもうちょっと「上流階級感」の低いカレッジだった。金持ちのボンボンに反感を抱きがちな僕にとっては、これはかえって良かったかもしれない)。

これがジョンソンだったとは(髪型がかなり特徴的だったとはいえ)断言できないが、もしそうだったとしたら、僕の嫉妬的直感は基本的に正しかったことになる。ジョンソンは、おそらく世界一のエリート校であるイートン・カレッジで中等教育を受けた特権的な家庭の出身。洗練されたマナーと上流階級のアクセントを身に着けた、超自信家の金持ちの若者のために、オックスフォードは勉強の場だけでなく、キャリアをスタートするための素晴らしい舞台まで用意する。

ジョンソンは、政界に多くの人々を輩出することで有名なディベートクラブ「オックスフォード・ユニオン」で役職を務めた。彼は学生雑誌の編集者にもなり、その経験が卒業後にタイムズ紙でジャーナリスト見習いの職を得るのに役立った(もっとも、ジョンソンの伝記作家によると「家族のコネクション」も助けになったようだが)。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米新安保戦略、北朝鮮非核化を明記せず 対話再開へ布

ワールド

対中ビジネスに様々な影響が出ていることを非常に憂慮

ワールド

中国、26年も内需拡大継続へ 積極政策で経済下支え

ビジネス

ドイツ鉱工業生産、10月は前月比+1.8% 予想上
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 2
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 3
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...かつて偶然、撮影されていた「緊張の瞬間」
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 8
    『ブレイキング・バッド』のスピンオフ映画『エルカ…
  • 9
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 10
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 6
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 9
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story