コラム

方言を笑われファッションをけなされる......「リバプール差別」を知ってる?

2023年05月15日(月)14時05分

明らかにその少年たちは、父親ももうすぐ来るから、雨も降ってきたし中で待たせてくれないか、とかなんとか店員に言って、僕の来る前に何度も入店を試みていたようだ。だから彼らはちょっとした厄介者ではあった。でも僕は、彼らがあざけりの対象になって当然とは思わない。さまざまな店員や他の客たちも加わって、彼らの特徴的なアクセントをまねするなどして馬鹿にしだした。

サッカーや音楽で有名なのに

問題はそこにある。彼らは明らかにリバプール出身であり、リバプール出身者はしばしば偏見を持って扱われる。話し方を馬鹿にされたり、服のセンスをからかわれたり(他のどの地域より少々「派手」)、何かを決めつけてかかったり(例えばリバプール出身者は「万引きしそう」で、いつも何かと警察沙汰になる)、など。

リバプール以外の地域のイギリス人は、リバプールの人々をからかうのにリバプールの方言を使うこともある──若者を「scallies(若いの)」と呼んだり、「bizzies(警察)呼ぶぞ」と脅したり。

僕がいま暮らしているエセックスに住む人々は、この手のステレオタイプとからかいをするべきではない。自分たちもある程度同じような経験をしているのだから(僕たちエセックス出身者は、あらゆる物事で趣味が悪い、ろくな教育を受けていない、変な英語をしゃべる、「勤勉な働き手」というよりは「ずるい策士」だ、などと決めつけられる)。

それなのに、その若者2人が何か問題を抱えて家出でもしたんじゃないかと心配してやるでもなく、みんな愉快そうに彼らを嘲笑していた。

リバプールは国際的には、大成功しているサッカーチームの存在や、ポップミュージックへの多大なる貢献(ビートルズだけではない)などで知られているから、そんなリバプールの人間が侮蔑の目で見られていることを知れば日本人は(そのほかの国の人々も)驚くだろう。

リバプールは欧州最大級の音楽祭「ユーロビジョン」を今年、ウクライナに代わって開催しており(昨年はウクライナが優勝し、通常は優勝国が翌年の開催地になるのが慣例)、リバプールには今、お祝いムードが漂っている。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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