コラム

女王と首相、「両方の親」を失いつつあるイギリス

2022年06月14日(火)18時20分
セントポール大聖堂での礼拝

女王の在位70年のプラチナ・ジュビリーなのに女王の不在ばかりが目立った(6月3日、セントポール大聖堂での礼拝) Victoria Jones/Pool via REUTERS

<エリザベス女王在位70年の祝賀行事は高齢の女王の不在ばかりが目立ってなんだか寂しく、ジョンソン英首相は信任投票をどうにか乗り切ったがもはや求心力なし>

作家オスカー・ワイルドの名言の1つにこんなものがある――片方の親を失うことは不幸と見なされるかもしれない。両方の親を失うことは不注意のように見える。

僕が今この言葉を思い出しているのは、イギリスが「不注意な国家」になる瀬戸際にいるからだ。国家元首と政府首脳という、両方のリーダーを失おうとしているから。

まずは、エリザベス女王。在位70年を祝うプラチナ・ジュビリーは素晴らしい催しだったが、女王自身があまり行事に出席できずに哀愁を帯びたものになった。

女王はセントポール大聖堂での礼拝に出席せず、バッキンガム宮殿でのコンサートも会場には現れず、熱烈な競馬ファンなのにエプソム競馬場のダービーにも姿を見せなかった。ジュビリーは女王を祝う行事だったのに、一番印象に残った「思い出」は女王の不在だった。僕たちは「ポストQE2(エリザベス2世)時代」へと移行しつつあるとも言えそうだ。

2012年に在位60年のダイヤモンド・ジュビリーが行われたとき、僕たちは皆、女王がいまだに現役で本当に長く勤め続けていることは、驚異的だと感じた。それから明白に10年がたち、今回は大きな違いがある。特に、僕は2012年の式典でのテムズ川水上パレードで、退屈かつ雨混じりの4時間半を女王が最後までじっとやり遂げたことをよく覚えている。

女王がまだ王位に就く前の21歳の誕生日に、「わが全生涯」を国民への勤めのために捧げる、と誓ったことは有名だ。だが彼女の健康状態と超がつくほどの高年齢は、彼女の職務遂行能力を制限している。だから僕たちは、望ましくはないものの、女王の事実上の公務引退を視野に入れているのかもしれない。

サッチャー政権末期と同じ症状

ボリス・ジョンソン英首相は与党・保守党による信任投票を生き延び、今のところは続投が決まった。だが自らの率いる与党・保守党議員ですら40%が退陣を望むなかで、彼があとどのくらいとどまれるのかは見通せない。

どう考えても、彼ら保守党議員たちは本来、首相であり自党党首であるジョンソンに忠誠心を働かせるはず。彼らの多くは、従来なら労働党が安泰だったいくつもの選挙区(通称「赤い壁」)でジョンソンが保守党に大勝利をもたらした2019年の総選挙での当選組だけに、ジョンソンには個人的恩義がある。ジョンソンは2019年の選挙のときは、労働者階級のブレグジット(イギリスのEU離脱)派の支持を勝ち取った。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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