コラム

「思った以上に信頼できない」英首相ジョンソンの問題はジョンソン自身

2022年01月28日(金)15時05分
ボリス・ジョンソン首相に抗議するデモ隊

イギリスのボリス・ジョンソン首相の人気は急落中(2021年12月) HENRY NICHOLLS-REUTERS

<国民に厳しいロックダウンを課していたさなかのパーティー疑惑で完全に信頼を失った英ジョンソン首相。政策はおおむね国民の支持を得ていたのに、人格で完全に見離されたからむしろ根が深い>

2年前、ボリス・ジョンソン英首相はのりにのっていた。2019年12月の総選挙でジョンソン率いる与党・保守党は安定多数を獲得し、今後5年間の統治と大胆なブレグジット計画実施を託された。

しかも、保守党は労働党の牙城だったイングランド北部の労働者階級の多い地域、いわゆる「赤い壁」に歴史的な突破口を開いた。それはジョンソンが一時的な首相ではなく歴史上の重要人物となり、保守党支配の新時代が来る可能性を意味していた。

特権乱用を許さないイギリス人の国民性

しかし、それも過去の話。新型コロナウイルス対策で政府が国民にロックダウン(都市封鎖)を強いるなか、その規則を破るようなパーティーが首相官邸で開催されていたことが次々と明らかになり、ジョンソンの人気は急落している。彼が説得力のない説明をし、取り繕うような謝罪をしても、国民をなだめるには何の役にも立っていない。

北部地域で選出された新米の保守党議員たちの怒りはとりわけ大きい(他党へ鞍替えした議員もいた)。彼らは今回の一件のあおりを受けて次の選挙で議席を失う可能性が最も高いからだ。

もともとの不支持層を怒らせることと、大事な支持者にそっぽを向かれてしまうことでは、話が違う。世論調査によれば、アルコールも出たというこの集まりを、ロックダウン下の違法なパーティーではなくて合法的な職務上のイベントだった、とジョンソンが言い張った時、彼の言い分を信用できないと答えたのは、保守党支持者ですら40%に上った。

ダブルスタンダードを喜んで許す人なんて誰もいないが、イギリス人はフェアプレーを求める意識がとりわけ高いようだ。長い行列に黙って並び、横入りには厳しい反応を見せる国民性からもそれがうかがえる。他の国では、権力者が特権を乱用するのを「仕方ないさ、そんなものだろう」と見逃す風潮もあるようだが、イギリスはそうはいかない。

普通の状況なら、ジョンソンは有権者との対立を恐れるべきではない。彼は16年の国民投票後、紆余曲折を経て、約束どおりイギリスをEUから離脱させた。

ジョンソン政権は、イギリスが「構造的な人種差別主義者」で「白人特権の国」だというBLM(黒人の命は大切)運動の主張をおとなしく受け入れたりしなかった。気候変動への取り組みに関しては、イギリスは今も世界をリードしている。

パンデミック対策は評価が分かれるところだが、「まあマシ」と考えられている。イギリスの死者数が比較的多いのは各国の統計手法の違いも一因だし、ワクチンの普及と比較的早い時期の経済再開は、まあ成功例だろうと捉えられている。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結

ワールド

英、中東に戦闘機を移動 地域の安全保障支援へ=スタ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されずに「信頼できない人」を見抜く方法
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 7
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story