コラム

「思った以上に信頼できない」英首相ジョンソンの問題はジョンソン自身

2022年01月28日(金)15時05分

これらの対応や、そのほかの問題(移民対策やBBC受信料問題など)を見てみても、ジョンソンの政策は反ブレグジット派や偉人像を引き倒したり暴動などに走ったりする「騒々しい少数派」に惑わされることなく、イギリスのほぼ多数派の意向にだいたい沿っていることが分かる。

元同僚や側近から相次ぐ批判

労働者階級の有権者がしばしば労働党より保守党を好むのは、貧しい人々を助ける最善の方法は増税や手厚い公的給付ではなく、減税や雇用機会、強い経済であるという保守党の哲学を受け入れているからだ。最近の数字は、イギリス経済がコロナウイルスのショックから力強く立ち直り、雇用率は歴史的な高水準にあることを示している。

にもかかわらず、支持率では野党・労働党が10ポイント以上の差で上回っている。つまり「大事なのは経済ではない。愚か者!」なのだ。ジョンソンの問題はジョンソン自身にある。

くまのプーさんの「ティガー」のようなエネルギッシュさとトレードマークのぼさぼさ髪は、当初は国民に親近感か、少なくともインパクトは与えられた。しかしその人柄が不快感を与えるようになり、今や彼には首相としての重みがないと思われている。国民は彼の政策に好感を持ったから、奇抜さを許した。しかし、彼は「パーティーゲート」でイギリス人主流層の怒りを買った。

これはジョンソンの数々の元同僚が警告していたことだ。共にブレグジットで汗を流したマイケル・ゴーブ議員(保守党)は16年、彼は国の指導者にふさわしくないと語った。ジョンソンをデイリー・テレグラフ紙の記者に採用したマックス・ヘイスティングズは、彼は「ほら吹きのひょうきん者」で「自分の名声と自己満足以外には興味がないから、首相に向いていない」と書いた。そしていま批判の先頭に立っているのは、元側近のドミニク・カミングスだ。

注目すべきは、これらの人々がジョンソンと政治的見解をほぼ共有していること。彼のオックスフォード大学時代の恩師である古典学者のオスウィン・マレーでさえ、彼を「道化物で怠け者」と言っている。彼のことを一番よく知っている人たちが、彼を信頼しなくなったわけだ。

イギリス国民も今、同じ境地に達した。彼を日々見続けたことで、彼が思った以上に虚栄心が強く尊大で、信頼できないことに気付いた。ジョンソンにとっては残念なことに、国民を不快にしているのは彼の政策ではなく、彼自身。不人気な政策は変えられるが、この政治家は駄目な奴だという認識は簡単には変わらない。

ニューズウィーク日本版 教養としてのBL入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月23日号(12月16日発売)は「教養としてのBL入門」特集。実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気の歴史と背景をひもとく/日米「男同士の愛」比較/権力と戦う中華BL/まずは入門10作品

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

日中双方と協力可能、バランス取る必要=米国務長官

ビジネス

マスク氏のテスラ巨額報酬復活、デラウェア州最高裁が

ワールド

米、シリアでIS拠点に大規模空爆 米兵士殺害に報復

ワールド

エプスタイン文書公開、クリントン元大統領の写真など
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 2
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 6
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 7
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 8
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    ウクライナ軍ドローン、クリミアのロシア空軍基地に…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story