コラム

ロンドンより東京の方が、新型コロナ拡大の条件は揃っているはずだった

2020年05月29日(金)15時00分

イギリス人はマスクをどう使ったらいいかよく分かっていない Hannah Mckay-REUTERS

<マスク、手洗いから肥満率やビタミンDまでーー長年東京に暮らし、現在は母国イギリスで暮らす筆者が頭を悩ませた、イギリスよりはるかに東京のコロナ被害が少なかった理由>

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)当初、僕はそんなに心配していなかった。なぜなら、ここイギリスのロンドンよりずっと前に東京では感染拡大が始まっていて、そして東京ではそんなに大ごとになっていなかったからだ。東京にもロンドンにもどちらにも暮らしたことがある者として、僕は確信していた。東京のほうがウイルスの広がる条件はそろっている、だから東京でそんなに深刻な事態になっていないのなら、ここイギリスでそう深刻になるはずがない、と。

第1に、ウイルスは都市ではより急速に広がるものだし、「東京」は周辺のあらゆる都市の頂点だ。僕は東京を、3000万かそこらの人口を抱える複合都市(川崎市や横浜市、さいたま市などを含む)と見ている。ロンドンは大都市(ローマよりずっと大きい)だが、東京とは比べものにならない。

第2に、人口密度も東京のほうがやたらと高い。人々はぴったりくっついて暮らしている。東京の満員電車はある理由によって世界的に有名だ――地球上にこんなシロモノは存在しないから。イギリス人の友人にその様子を説明するのには、いつも苦労する。ちなみにロンドンに通勤する人々は、時々こうグチる。「今朝は」電車で座れなかったよ――(電車で立つのは、めったにない不便な体験なのだ)。

日本人はより長い距離を通勤し、より長い時間をオフィスで過ごし、より多くの会議を行い、そしてコーヒーショップや居酒屋、パチンコ店では隣の人と肩が触れ合うような席で座る。僕がいつも東京について強く感じるのは、イギリスの常識よりもかなり、人々が至近距離にいるということだ(東京での10年間、僕は自分の「パーソナルスペース」が侵害されていると感じていた)。

会社員は常に睡眠不足状態で(免疫系に悪影響だ)、日本人は体調が悪いときも何とか仕事に行こうとする悪い癖がある。イギリスに比べ、80代や90代の高齢者の数が格段に多い。学校では1クラスの人数も多い。日本人はあまり換気にも気を配らないように見える(僕はよく、天気の良い日の職場や、タバコが煙たい居酒屋などで窓を開けようとしたが、たいてい日本人がやってきてまた閉めてしまうだけだった)。これらの理由全てから、僕は東京で大惨事が起こるのではと恐れ、そうはならなかったと知って、イギリスは大丈夫だと感じた。

肥満要因を自ら語るジョンソン英首相

それが今、イギリスはこんな状態だ。日本の人口の約半分の国で、日本より厳しいロックダウン(都市封鎖)規制にもかかわらず、致死率は日本の50倍に上る。明らかに困惑するような状況だし、僕が誰より困惑している。だから、専門家として見解を述べられるわけでもないし、科学をよく理解しているわけでもないけれど、僕の個人的な経験による見立てからは「真逆」の結果になった理由(イギリスが日本より被害が大きい理由)を問われるならば、僕はこんな見解を提示するだろう。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

英CPI、食品価格データ収集で2月から新手法 若干

ビジネス

米アマゾン、全世界で1.6万人削減 過剰雇用是正と

ビジネス

ドルの基軸通貨としての役割、市場が疑問視も 独当局

ワールド

ロシア軍がキーウ攻撃、2人死亡 オデーサも連夜被害
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市 vs 中国
特集:高市 vs 中国
2026年2月 3日号(1/27発売)

台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化はなぜ不可逆なのか
  • 3
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 4
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 5
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 6
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 7
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 8
    「恐ろしい...」キリバスの孤島で「体が制御不能」に…
  • 9
    「発生確率100%のパンデミック」専門家が「がん」を…
  • 10
    40代からは「積立の考え方」を変えるべき理由──資産…
  • 1
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 4
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 5
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味…
  • 6
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 7
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 8
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 9
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 10
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 3
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 4
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 5
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパ…
  • 6
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 7
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 10
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story