コラム

ロンドンより東京の方が、新型コロナ拡大の条件は揃っているはずだった

2020年05月29日(金)15時00分

まず、日本人はただマスクをよく付けるというだけでなく、十分な経験がありどう使えばいいかをよく知っている。対するイギリス人は、マスクを使ったとしてもやたらと位置を直す(手で顔を触る)。誰かと話すときにマスクを外す(最もマスクの効果が必要なときに着用していないということだ)。僕は最近、初めてスーパーマーケットでマスクをつけた。めがねが曇って周りの人にぶつかったりしはじめたので(2メートル距離を置くルールに違反している)、結局めがねを外すことにした(また顔に手を触れた)。

第2に、日本人は僕たちのような握手を習慣的にしないだけでなく、僕たちよりかなり頻繁に手を洗う。僕が日本を出てニューヨークに移り住んだとき、トイレの後に手を洗う男性の比率の少なさに驚愕した。それからイギリスに戻ると、母国の男たちも同じだと気付いた(ジムではこれが気になってしょうがなかった。みんなで同じマシンを使うのだから)。研究によれば、これは男性特有の問題だということを強調しておかなければならないだろう。女性は手を洗うし、それこそが女性より男性のコロナ患者がずっと多い理由の1つかもしれない。

第3に、イギリスは肥満の国であり、イギリス人はそれを否定する。大ざっぱな一般論だが、明らかにイギリス人は日本人よりはるかに太っている。もしも肥満が大きな「併存疾患」要因であることが判明すれば、多くの日本人が新型コロナウイルスに感染しつつも治療や正式な診断も必要としないまま治癒している一方で、何千何万という過体重のイギリス人が同じウイルスで重症化し入院しているのもうなずける。

イギリスで、他のイギリス人から「太っている」と認定されるには、5キロや10キロ体重を増やしたくらいでは不十分。そんなのはイギリスではありきたりだ。20キロやそれ以上の過体重の人なんてたくさんいる。ボリス・ジョンソン英首相は明らかに太り過ぎだが、彼がコロナで入院したときそのことについてはほとんど触れられなかった。代わりに、同僚たちはジョンソンがジョギングもテニスもしているから「健康体だった」と語っていた。

それは結構なことだが、多くのイギリス人のように、ジョンソンのBMIは彼が極めて肥満状態にあることを示している。ただ、ジョンソンは自身が重症化した要因の1つが肥満であるかもしれない、ときちんと認め、イギリスで進行しつつある肥満危機について広く議論を呼び掛けている。

最後に、僕はイギリスのコロナ危機でビタミンDが大きく関係したのではないかと怪しんでいる。イギリスは冬の間、異常に光が当たらない。イギリス人は日光をほとんど浴びられず(午後4時前には暗くなる)、外は憂鬱で寒いから昼間でも屋内で過ごす人が多い。これは、寒いけれど晴れた日も多くて日照時間もより長い東京やニューヨークとは対照的だ。

だから3月頃までには(このころ新型コロナウイルスがイギリスで拡大しだした)、イギリス人はビタミンD欠乏症と化す。ビタミンD不足は明らかに免疫系を弱らせる。これは特にロンドンで顕著だ。そして、黒人の肌は強い日光に耐えられるよう進化してきただけに、これは特に黒人への影響が大きい。イギリスの冬は彼らにとって適応しづらい状況なのだ(コロナに感染した白人より黒人のほうがずっと重症化しやすかった要因の1つだった可能性もある)。こうした理由から、くる病は現代イギリスでもまだ問題になっているし、ビクトリア朝時代の病気というイメージとは裏腹に、その症例は今も増え続けているのだ。

ニューズウィーク日本版 非婚化する世界
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年6月17日号(6月10日発売)は「非婚化する世界」特集。非婚化と少子化の波がアメリカやヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story