コラム

コロナに住宅購入資金まで奪われるイギリスの若者たち

2020年04月29日(水)13時00分

イギリス人は自分の家を手に入れることを目標にしていて、それまで子供を儲けるのを先延ばしにすることが多い Peter Nicholls-REUTERS

<イギリスでは失業手当などを含む包括的福祉手当は、一定の貯金がある人は受け取ることができない......馬鹿を見るのは、真面目に働いて家を買うためコツコツ貯金してきた人たち>

ロックダウン(都市封鎖)以来毎日、僕は1つ、また1つと新たなことを心配している。つい最近気になっていたのは、学校閉鎖の影響で労働者階級の子供たちの地位上昇の機会が奪われかねないことだった。今、僕が気になるのは、住宅購入のために貯蓄する若者のことだ。

イギリスの社会保障制度には、倹約を罰するという奇妙なゆがみがある。1万6000ポンド(約210万円)の貯金がある人は、ユニバーサル・クレジット(失業手当などを含む包括的な福祉手当)を受給することができない。通常時なら、それも理にかなうだろう。失業手当に甘んじることを、あまり魅力的な選択肢にすべきではない。納税者のカネが、十分な銀行預金残高を持つ怠け者に流れるなどもってのほかだ。

でも、新型コロナウイルスは全てを変えてしまった。それ以前はイギリスの失業率は格段に低く、つまり失業は「あえて選択」しているか、一時的な状態を指していた。それが一瞬のうちに、普通の働き者の人々が仕事を奪われ、自営業者の稼ぎが消え去っている。

イギリスの住宅価格は今、歴史的に見てもとても高い水準になっている。人々が最初の家を買う平均年齢は、今回のコロナ経済危機が起こる前から既に上昇し、10年前には31歳だったのが今では33歳になっており、今後10年で40歳にまで上がるだろうと予測されている。10年前なら、25~34歳の若者の半分以上(55%)が家を持っていた。今やその数字は38%だ。

これは単に経済的な問題というだけではない。イギリスの人々は、自分の資産――できればアパートよりも持ち家(たとえどんなに小さな家であろうと)で庭付き(たとえどんなに小さな庭であろうと)のものが手に入るまで、第1子を儲けるのを持つ。だから子供を持つのを先延ばしにする人々もいれば、ついに機会を失う人々もいる。

貯金ゼロの浪費家はすぐ受給できるのに

イギリス人男性にとって、わが家は城である、とはよく言われる。家を持つことは、自分が大人になったような、人生のステージを「達成した」ような実感を与えるものだ。それが今や、達成するのが著しく困難な夢になっている。

この世代の人々は皆、20代と30代初めの時期を「住宅購入の頭金をかき集める」のに精いっぱいになって過ごしてきた。住宅ローンでは最低5%程度の頭金が要求されるが、ほとんどの人が10~15%の頭金を用意しようとする。そのほうが有利な契約を結べるからだ(金利も低くなるし月々の返済もより手ごろな額になる)。ロンドンの外の典型的な小さな家はだいたい20万ポンド(約2650万円)くらい。ロンドンではぐっと値上がりし、60万ポンド(7900万円)くらいになったりする。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ウクライナ紛争は26年に終結、ロシア人の過半数が想

ワールド

米大使召喚は中ロの影響力拡大許す、民主議員がトラン

ワールド

ハマスが停戦違反と非難、ネタニヤフ首相 報復表明

ビジネス

ナイキ株5%高、アップルCEOが約300万ドル相当
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 8
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 9
    【投資信託】オルカンだけでいいの? 2025年の人気ラ…
  • 10
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 7
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 10
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story