コラム

ロンドンのインフラ老朽化がもたらした思わぬ発見

2019年04月24日(水)17時40分

ロンドンのハマースミス橋は欠陥が見つかり車両通行止めに。解除のめどは立っておらずいつもは大混雑の橋が閑散としている(筆者撮影)

<多くがビクトリア朝時代に作られたロンドンの橋や建築、地下鉄などが、老朽化に加えて緊縮財政のあおりを受けて、次々とほころびを見せている>

僕は毎年、数週間をロンドンで過ごしていて、必ず訪れている場所がいくつかある。1つがハマースミス橋だ。近くにあるファーニバル公園で座って、テムズ川とこの橋を眺めるのがお気に入りだ。

だが今回は何か様子が違った。橋の上を車が1台も走っていないのだ。橋の点検で「重大な問題」が見つかり、先週突然、車両通行止めになったということが判明した。おかげで大変な状況になった。解除の目途は立っておらず、修繕には4000万ポンド(約60億円)程度かかるらしい。

しかもなお悪いことに、その費用を誰が負担するのか決まっていない。こんな事態になったのは日頃のメンテナンスを怠ってきたからだとして、非難の矛先は地方自治体に向けられている。自治体の方では、ロンドン交通局に費用を払ってほしいと考えているのだが、ロンドン交通局は年間7億ポンド(約1000億円)も中央政府からの予算を削られている。

もしかするとこれは、僕らが長く続けてきた緊縮策のせいではないだろうか。毎年毎年、地方自治体の予算は削られてきた。この状況を招いたのは単に行政の怠慢かもしれないが、ケチってメンテナンス費を削らざるをえなかったことも、橋の劣化の一因になったのかもしれない。だが明らかに今回の修繕費用は、きちんとメンテナンスしていた場合の費用よりも高くつくことだろう。そのうえ、通行止めは大規模な混乱を引き起こし、地元経済は打撃を受けることになる(車両は3キロ離れたパットニー橋に迂回しなければならない)。だから、緊縮策は本当に節約になるのかと疑問に思ってしまうのも当然だ。

それに、ロンドンのインフラの多くはビクトリア朝時代のものだから、今回のようなことはロンドンの「典型的な」問題だ。1876年に完成した「ビッグ・ベン」とウェストミンスター宮殿は、大規模改修工事のまっただ中。今回問題が見つかったハマースミス橋は1887年、アルバート橋は1873年、タワーブリッジは1894年にそれぞれ完成した。これらの建造物は用途以上の意味を持っている。人々から愛される歴史的なランドマークなのだ。

言うまでもなく、使用されている建材も技術もものすごく古い。それに建設当時には、130年後の未来に何が必要になるかなんて想像もできなかっただろう。現代ではハマースミス橋を1時間に通過するバスは約100台にもなり、橋の負荷を減らすために建前上は「バスは1度に1台ずつ」との制限があった(実際は厳密に守られていなかったようだ)。橋はほぼいつでも、交通量が激しかった。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

小泉防衛相、中国軍のレーダー照射を説明 豪国防相「

ワールド

米安保戦略、ロシアを「直接的な脅威」とせず クレム

ワールド

中国海軍、日本の主張は「事実と矛盾」 レーダー照射

ワールド

豪国防相と東シナ海や南シナ海について深刻な懸念共有
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 2
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 5
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    『ブレイキング・バッド』のスピンオフ映画『エルカ…
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 10
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story