コラム

イギリスで「使い捨て」が流行語大賞になったわけ

2018年12月11日(火)18時40分

エリザベス英女王はバッキンガム宮殿など王室施設でプラスチック製品の使用を廃止する指示を出した(写真はイベントで展示されたペットボトルのインスタレーション) Dylan Martinez-REUTERS

<環境意識の高まりから特に使い捨てプラスチック問題に注目が集まるイギリス。王室レベル、市民レベルでも具体的な動きが始まっている>

イギリスの今年の「流行語大賞」には、「使い捨て」が選ばれた。今やほぼいつでも「プラスチック」とセットで使われるようになった言葉だ。数年前なら「使い捨てプラスチック」なんてほとんど耳にしなかったのに今は頻繁に使われている言葉だから、うまい選択だと思う。

選出された1つの大きな要因は、昨年末に放送されたBBCのドキュメンタリーシリーズ『ブルー・プラネット2』だ。そこでは、プラスチックが海と海洋生物に及ぼす恐ろしい影響が紹介された。この番組は大いに議論を呼び起こし、多くのイギリス人はプラスチックの使用、特にビニール袋の使用を減らすべく努力するようになった。

エリザベス女王は、バッキンガム宮殿やその他の王室施設でのプラスチック製品の使用を廃止するよう指示を出した。イギリス全土でプラスチック製ストローや、プラスチックの柄の付いた綿棒を禁止する方針も発表された(どうやらイギリス人は年間18億本も綿棒を使うらしい)。イギリスで最も人気の紅茶、PGティップスは間もなく、プラスチック不使用のティーバッグのみを販売する予定だ(ティーバッグの消費は年間90億個)。これは、ウェールズのある消費者の請願書から火が付き、メーカーが動いたことで実現した。

ティーバッグにプラスチックが含まれているなんて思いつきもしなかったから、PGティップスの件は僕も驚いたし大勢のイギリス人も驚いただろう(発起人のウェールズの男性は、使用済みのティーバッグを庭の堆肥に使っていたが、他のごみのように分解しなかったので気付いたらしい)。

同じように僕は今年になって初めて、自分が買う牛乳のプラスチック製容器や調理済み食品のプラスチック製の箱が実質、リサイクルされていないことに気づいた。これらがまた容器や箱に生まれ変わることはない。せいぜい他のプラスチック製品に「ダウンサイクル」される程度だろう。それまで僕は、自分はゴミの分別を徹底しているからかなり道徳的なほうだと自負していた。だが今や、プラスチックごみを出すときにむしろ罪悪感を覚えるようになっている(2週間に1枚のペースで、容量75リットルのごみ袋がつぶしたプラスチックごみでちょうど満杯になる量だ)。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ドイツ銀、第3四半期は黒字回復 訴訟引当金戻し入れ

ビジネス

JDI、中国安徽省の工場立ち上げで最終契約に至らず

ビジネス

ボルボ・カーズの第3四半期、利益予想上回る 通年見

ビジネス

午後3時のドルは152円前半、「トランプトレード」
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:米大統領選 イスラエルリスク
特集:米大統領選 イスラエルリスク
2024年10月29日号(10/22発売)

イスラエル支持でカマラ・ハリスが失う「イスラム教徒票」が大統領選の勝負を分ける

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 2
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」ものはどれ?
  • 3
    リアリストが日本被団協のノーベル平和賞受賞に思うこと
  • 4
    逃げ場はゼロ...ロシア軍の演習場を襲うウクライナ「…
  • 5
    トルコの古代遺跡に「ペルセウス座流星群」が降り注ぐ
  • 6
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア…
  • 7
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の…
  • 8
    中国経済が失速しても世界経済の底は抜けない
  • 9
    ウクライナ兵捕虜を処刑し始めたロシア軍。怖がらせ…
  • 10
    「ハリスがバイデンにクーデター」「ライオンのトレ…
  • 1
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 2
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の北朝鮮兵による「ブリヤート特別大隊」を待つ激戦地
  • 3
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア兵の正面に「竜の歯」 夜間に何者かが設置か(クルスク州)
  • 4
    韓国著作権団体、ノーベル賞受賞の韓江に教科書掲載料…
  • 5
    目撃された真っ白な「謎のキツネ」? 専門家も驚くそ…
  • 6
    ウクライナ兵捕虜を処刑し始めたロシア軍。怖がらせ…
  • 7
    逃げ場はゼロ...ロシア軍の演習場を襲うウクライナ「…
  • 8
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 9
    裁判沙汰になった300年前の沈没船、残骸発見→最新調…
  • 10
    北朝鮮を訪問したプーチン、金正恩の隣で「ものすご…
  • 1
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 2
    「地球が作り得る最大のハリケーン」が間もなくフロリダ上陸、「避難しなければ死ぬ」レベル
  • 3
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 4
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の…
  • 5
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア…
  • 6
    ウクライナに供与したF16がまた墜落?活躍する姿はど…
  • 7
    漫画、アニメの「次」のコンテンツは中国もうらやむ…
  • 8
    エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明…
  • 9
    ウクライナ軍、ドローンに続く「新兵器」と期待する…
  • 10
    韓国著作権団体、ノーベル賞受賞の韓江に教科書掲載料…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story