コラム

世界でも特にイギリスでトランプが嫌悪される理由

2018年08月24日(金)17時00分

イギリスのパブに並んでいたアメリカン風ビールは「POTUS(米大統領)」ではなく「NOTUS(私たちの一員ではない)」という名前 Newsweek japan

<攻撃的で規範無視のトランプをイギリス人が嫌う理由を挙げればきりがないが、根底には粗野な発言を自分たちが話す英語で聞かされるという苦痛がある>

最近、パブでゲストビールの種類を眺めていたとき、ある商品が目についた。それは「アメリカンスタイル」のビール(醸造はイギリス)で、「NOTUS」という名だった。よくよく見れば、「POTUS」と書いてあるが P が × で消されていて代わりに N と書かれていることが分かる。つまりは、反トランプのジョークなのだ。POTUS とは米大統領(President Of The United States)のことだが、NOTUS は現職米大統領が「私たちの一員ではない(Not Us)」ことをほのめかしている。

イギリス人はトランプをあまり好きではない、と断言しても差し支えないだろう。その理由を挙げろと言われても、どこから話を始めたらいいか分からないほどだ。トランプは不快な性格で、政治や外交の規範を平気で無視するように見える。彼は訪英してメイ首相と会談する直前に、英紙のインタビューでメイを批判した。彼はNATO同盟国に攻撃を仕掛け、その後にはロシアのプーチン大統領をホワイトハウスに招待した。

トランプの環境政策、ナショナリズム、イラン核合意からの離脱、メキシコ国境での移民親子の引き離し、銃所持の権利擁護......全てがイギリス人を実に動揺させている。トランプのくどい握手の仕方は、イギリス人から見れば奇抜だ。イギリスの人々は、トランプが自らそうであるかのように見せているほどの「たたき上げの男」だとすら思っていない。

だが結局のところ、イギリスでのトランプ非難が「特別」激しい理由は、わがイギリスとアメリカとの間に「特別な関係」が存在するとの思い込みがあるからだろう。英米はこんなにも長い間こんなにも親密な同盟国であり続けたから、アメリカの有権者は何らかの形でイギリス人が納得できる大統領を選ぶ義理がある――そんなふうにイギリス人は(ばかげたことだが)考えているのだ。平均的なイギリス人は、もっとリベラルで、もっと思いやりがあり、もっと一流の指導者を望んでいた......そしてこの結果に傷ついている。

<参考記事:村上春樹の小説を僕が嫌いな理由

一応、公約どおりだけど......

僕は個人的に、トランプを当選させた米大統領選には無視できない何らかの意味があるに違いないと思いたい。何千万人ものアメリカ人が、従来型の政治に見捨てられ、無視されていると感じていた。トランプはそこにつけ込み、彼らに新たな何かを提示したが、彼が本当に有権者の希望に応えられるかどうかはいまだに見えてこないままだ。金融危機とそれに続く景気後退や、税金を投入しての超富裕層の救済が、人々の怒りと不信を生み、それがトランプにうまく利用されたのだ。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ウクライナ軍、東部戦線で反攻作戦を展開=ゼレンスキ

ワールド

プーチン氏が増税示唆、戦時中は「合理的」も 財政赤

ワールド

全国CPI、8月は前年比+2.7%に鈍化 補助金や

ワールド

トランプ氏、TV局の免許剥奪を示唆 批判的な報道に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 8
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 9
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 10
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story