コラム

驚愕の英総選挙、その結果を取り急ぎ考察する

2017年06月12日(月)11時00分

選挙後にBBCのインタビュー番組に出演した労働党のコービン党首 Jeff Overs/BBC/REUTERS

<保守党が惨敗して労働党が躍進した英総選挙。勝つのが当たり前と考えていた保守党はキャンペーンでおごりすら感じられた一方、労働党は大学授業料の無料化を公約にして若年層の支持を拡大した>

イギリス国民がジェレミー・コービン党首の労働党に投票したがる可能性を、僕はあまりに低く見ていたようだ。他の人々だってほとんど全員、僕と同じく予想を外した、と言い訳にすることもできるだろうけれど、僕は特に、コービンは非主流キャラで決してイギリス国民の広い支持は得られないだろうと主張してきた。そんな彼が今回の総選挙で40%の票を得た理由を、僕は今もつかみかねているものの、思い当たることはいくつかある。

まず、保守党のキャンペーンは精彩を欠いていたというだけでなく、おごりすら感じられた。当初のリードはとても大きかったから、あとは大勝利に向けて「流して行こう」と心に決めたかのようだった。

テリーザ・メイ首相はほとんど有権者と触れ合わなかった(一般有権者の前に姿を現すのではなく、集会をいくつか開いて保守党支持者の前で演説しただけだ)。保守党のキャンペーンでは、本気で取り組みそうな政策や目標すら見えてこなかった。

彼らは同じキャッチフレーズを何度も何度も繰り返して、人々をいら立たせた(「強く安定したリーダーシップ」、われわれに投票を。コービンに、そして「大混乱を生む連立政権」に反対票を)。多くの人の目に、保守党は自分たちが勝って当然と考えているように感じられた――これは民主主義においてはとても危険なことだ。

【参考記事】英総選挙で大激震、保守党の過半数割れを招いたメイの誤算

僕の考えでは、もう1つの大きな要素は、コービンが大学授業料の無料化を公約したことだと思う(そして、既に卒業した人々の学費ローンも減免あるいは清算することを検討している)。

僕は以前にも大学の学費問題について書いたことがあり、若者が現状に黙っているのが不思議でしょうがないと指摘した。今となっては、若者たちが束になって、この問題に何かしら取り組んでくれそうな候補者に投票しようとしたのは明らかだ。労働党は大学のある地区や学園都市でとりわけ高い支持を得た。

コービンが実際に首相になったとき、彼がどうやって公約を実現させるのか僕には分からない。大学進学者がイギリス人のほんの一握り(10%以下)だった時代、授業料は税金から支払われていた。今や大学進学率は50%。授業料無料化が取りやめになったのは、財政的に不可能になったからだ。

同じように、コービンの公約は現代イギリスの最も深刻な問題のいくつかに対処する急進的なプランを提示したと思う。住宅危機や、ばかげて高額な鉄道運賃、エネルギー関連会社の横暴などに対してだ。僕はコービンの公約が妥当だとも実現可能だともまったくもって考えなかったが、何百万人もの有権者は、急進的にこれらの問題を解決しようとのアイデアに大興奮で飛びついた。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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