コラム

日本に提案する新規ビジネス

2011年04月27日(水)14時12分

 僕には商才があるとはいえないだろう。

 若い頃は金儲けの方法としていろいろ馬鹿げたことを考えた。近頃は誰もかれもがテスコで買い物するから自分もスーパーマーケットをやろう、とか。ヨーロッパ各地を旅して名所の写真を撮り、ロンドン郊外のロンフォードの店で1枚35ペンスで売ろう、とか。サンドイッチの店を始めれば、材料費はパン2枚とチーズで20ペンス足らず、サンドイッチは2ポンドで売れるぞ(差額はすべて儲けだ)、とか。

 カネを稼ぐことを甘く考えていた自分の青臭さがきまり悪く、年齢を重ねるにつれて僕はすっかり悲観的になった。あるとき友人が、珍しがられるような日本製品を僕が日本から輸出し、彼がオークションサイトのeベイで売るのはどうだろう、と持ちかけてきたことがある。僕は為替リスクや関税規定や送料などを心配し、危険を冒そうとはしなかった──だから何も得られなかった。銀行家の友人が僕のあるアイデアを気に入り、融資すると言ってくれたこともある。僕は迷いに迷い、融資の話は結局お流れになった。

 そんな僕が日本にビジネスの提案をするなんて、とても気が引ける。ただイギリスじゅうで見かけて、いいアイデアだと思うのに、日本では見かけないから、参入する余地があると思う。

■不要なモノを有効活用 

 僕の提案はいたって単純、チャリティーショップだ。慈善団体が運営し、リサイクル品などを扱う店で、イギリスの大通りには必ずと言っていいほどある。ごく普通の市街地に7~8店あることも。主だったところでは障害者支援団体のScope、心臓病支援基金(BHF)、オックスファム、PDSA(低所得者のペットを治療する獣医師の慈善団体)などのショップだが、ほかにも何十種類もある。

 僕がよく行くのは猫の保護や里親探しなどをしている団体「キャットレスキュー」のショップ。僕が猫好きだからというのもあるが、本の価格設定システムが実にすばらしいからだ。どの本も定価の10%でとてもお買い得。これぞと思う逸品を見つけたけれどお値段のほうも立派でほかの本の3倍だ、なんてことになる心配もない。

 チャリティーショップなら「寄付する」ことが簡単にできる。方法は2つあり、どちらの方法でも人助けができる。1つは、要らなくなったモノをショップに寄付する方法だ。もう二度と着ない服、読んで気に入らなかった本、見終わったDVD、古くてかさばるティーポット......(どういうわけか、ドイツ土産でありがちな凝った細工のビアマグがしょっちゅう寄付される)。

 日本にいた頃はマンションの部屋にいらないモノがあふれ、引き取ってくれるところもなく、欲求不満に陥っていた。片付けたいが、モノを無駄にするのは嫌だった。チャリティーショップがあれば一挙両得、おまけに人助けにもなる。

 チャリティーショップで寄付をするもう1つの方法はもちろん、モノを買うことだ。僕はもっぱら本を買う──いくつか掘り出し物もあった。図版入りのアイルランドの歴史書、ビクトリア朝のロンドンで貧しい人々に取材して貧困の実態を記録した有名な本の復刻版、イギリス人に関する人類学的研究の本......。でも装飾品や実用品も買った。

■肩肘張らないチャリティーを

 チャリティーショップのスタッフのほとんどはボランティアだ。失業中の人は働く意欲と社会の役に立ちたい気持ちを示せて、実際に職探しにも役立つ。もっとも、ほとんどのスタッフは善意でやっている。

 なのに、どうして日本にチャリティーショップがないのだろう。部屋にはモノがあふれすぎている。人々は親切で気前がいい。物価は高すぎで、必要なものが安く手に入ればさぞかしありがたいだろうフリーターや学生が山ほどいる。

 イギリスではチャリティーショップは何も貧しい人々のための場所ではない。通常のショッピングの手段の一つだ。何もかもが新品である必要はない。チャリティーショップで買い物をするのは楽しいくらいだ。おしゃれなエリアなら、服のコーナーで本当にいい物が見つかることがある。学園都市では、質の高い本に出合えるかもしれない。

 日本にチャリティーショップがない理由は単純なのかもしれないが、商才のない僕には分からない。そんな僕が提案だなんておこがましいが、今の日本には助けを必要としている人が大勢いる。東北の人はもちろん、大都市のホームレス、障害者、十分なケアを受けられない高齢者......。

 僕は過去6カ月間にチャリティーショップを通して、それまでの6年間を上回る寄付をした。そしてその上、いい買い物もできた。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米中貿易協定、早ければ来週にも署名=ベセント米財務

ビジネス

日産、今期は2750億円の営業赤字を予想 売上高は

ビジネス

ユーロ圏GDP、第3四半期速報+0.2%で予想上回

ビジネス

デジタルユーロ、27年にも試験運用開始の可能性=E
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面に ロシア軍が8倍の主力部隊を投入
  • 4
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 5
    コレがなければ「進次郎が首相」?...高市早苗を総理…
  • 6
    【クイズ】開館が近づく「大エジプト博物館」...総工…
  • 7
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 7
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 8
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story