コラム

税率アップでイギリスは倹約経済へ

2011年01月07日(金)12時35分

 僕がこのブログを書いている1月4日、イギリスでは僕の人生で3度目となる付加価値税の税率引き上げが行われた。VATと呼ばれるこの消費税の税率が7.5%から15%へと倍増されたのは、僕が子供だったとき。だが今や、その税率は20%にまで増加した。日本の消費税が3%から5%に値上がりしたくらいで当時の日本人があんなに怒っていたのが理解できないくらいだ。

 イギリス経済は今、ひどく苦境にあえいでいるように見える。労働党は政権時の好景気の時代に、債務をいくらか削減しようとする代わりに財政赤字を膨らませた。次いで起こった2008年の金融危機を逃れるため、今度は大規模な銀行救済と一連の景気刺激策を行った。

 今のイギリスには、増税してもっと税収を増やすことと、公共支出を減らすことの両方が必要だ――そう考えている点において、新たに政権についた保守党は正しいといえるだろう。問題は、彼らが支出を大胆にカットできずにいること。さらにVATもここまで上がると人々の買い控えが始まり、税収はさほど伸びない段階へと突入するだろう。これは、僕にも少なからず当てはまる。ここ数カ月、僕は本当に必要な物以外はめったに新しいものを買わなくなっているからだ。

■カネの不要なイギリスライフ

 イギリスは「カネを使わない」選択をして生きるには本当にいい国だ。あらゆる目抜き通りにはたくさんのチャリティーショップが並び、お目当ての古本を探せる。僕はクリスマスプレゼント用の素敵な花瓶も手に入れた。

 イギリスではジムに行かなくても、ウオーキングやランニングにうってつけの美しい公園や田園地帯がある。まだ暖かかった季節には、かの有名な「トランクセール」を見て回ったり、そこでちょっとした買い物をしたりするだけで、僕は物欲を満たすことができた。日用品から少し変わった物までありとあらゆる品々を人々がただ同然の値段で売る、かの有名なフリーマーケットのことだ(本棚を2ポンドで購入したし、コーヒーポットの一種、カフェティエールは1ポンドで手に入れた)。

 僕は縫い物のやり方や、さまざまな生鮮食品の最適な保存方法まで身につけはじめた。最後にした大きな買い物といえば、ビールの自家醸造キット。これを使えば自家製ビールを0・5リットル当たり約40ペンスで作ることができる。

 などと言うと、けちで気難しい老人みたいに思われることは十分承知の上だ。それでも実際のところ、僕はこの状況をけっこう楽しんでいる。僕は自家製ビールを初めて試す時を心待ちにしている。「古いものを修理して使う」ことや、倹約の精神を学ぶことには確かな喜びがある。今でもパブに行ったりたまにレストランで食事したりするけれど、そんな時には以前より特別なごちそうに感じられる。

 もちろん、イギリス人全員がこうだとは言っていない(ましてやイギリスは長年浪費にどっぷり浸かってきた国だ)。それでも僕の知人のほぼ全員が、工夫次第で何年でも使えそうなものを家中にため込んでいる。

 政府にしてみれば、経済を活性化し、税収を確保し続けるためには、人々がカネを使い続けることが必要だろう。だが、すでに高い物価に「ぼられている」と人々は怒りを口にしているし、その上VATまで20%へと吊り上げられた。こんな時代に多くのイギリス人が取る行動は......おそらく僕と同じだろう。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

FRB利下げ「良い第一歩」、幅広い合意= ハセット

ビジネス

米新規失業保険申請、3.3万件減の23.1万件 予

ビジネス

英中銀が金利据え置き、量的引き締めペース縮小 長期

ワールド

台湾中銀、政策金利据え置き 成長予想引き上げも関税
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 5
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 8
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 9
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 10
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 10
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story