コラム

墓地へ行こう!〜秘密のニューヨーク案内part.2〜

2009年10月17日(土)12時50分


 僕はいつだって墓場が大好きだ。整備が行き届いているし、平和だ(スケートボードやフリスビーで遊ぶ若者はいない)。死という運命について重苦しく考えさせられることもない。それどころか、埋葬されている人たちの功績に考えをめぐらせると、あれこれと想像をかき立てられて、ワクワクする。

 ブルックリンのグリーンウッド墓地はとりわけ美しく、歴史もある。

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グリーンウッド墓地の入り口

 ニューヨークにセントラルパークができる以前の19世紀初めには、人々はこの場所でピクニックをし、イーストリバーを臨む素晴らしい景色を楽しんだ。

 現在、天気のいい日には、有名人の墓を探すために1000人もがこの墓地を訪れる。もっとも2平方キロ近くもある広大な敷地には小道は無数にあり、池や丘まである。歩いていても人を見かけることはほとんどない。

 グリーンウッド墓地には多くのニューヨークの偉大な先人たちが眠っている。ニューヨーク・タイムズは1977年に「ニューヨークの住人の最大の望みは五番街に住み、セントラルパークで大気を浴び、祖先と共にグリーンウッド墓地に埋葬されることだ」と書いている。作曲家で指揮者のレナード・バーンスタインや、若くして死んだカルト的アーティストのジャン・ミシェル・バスキアもここに眠っている。バーンスタインの墓は彼の伝説的な地位から考えればかなり質素だ。

 僕がとりわけ興味を引かれたのは、1855年に死んだギャング団のボス、ウィリアム・プールの墓。

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 映画『ギャング・オブ・ニューヨーク』でダニエル・デイ・ルイスが演じた「ビル・ザ・ブッチャー」のモデルになった人物だ。「アメリカ生まれ」の集団を組織し、アイルランド系移民に対抗した彼の最期の言葉が墓石に記されている。「さよなら、ボーイズ。私は真のアメリカ人として死ぬ」

 プールの墓からさほど遠くない場所に、同じく映画のモデルになったタウンゼンド・ハリスの墓がある。

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 ハリスは初代駐日米領事として開港したばかりの下田に赴任。58年の映画『黒船』では、ジョン・ウェインがハリスを演じている。ハリスの墓の周りには下田市から贈られた石灯篭が飾られ、墓石にはハリスが「日本のよき友」だったことを示す墓碑銘が記されている。

 僕の一番のお気に入りは、忘れられた19世紀の画家ウィリアム・ホルブロック・ベアードの墓だ。僕が思うに、彼は偉大な画家とはいえない。作品の多くは擬人化された動物を描いたもので、2本足で立つクマがおしゃべりに興じ、ダンスをする。だから、実物大かと思われるほど大きなクマの銅像が墓石の上に腰掛けているのは、彼の人柄を表してるわけではないのだろう。だがクマそのものが、まぎれもない芸術になっている。

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 先に挙げたプールの墓もベーアドの墓も、当初は無標だったが、この数年の間に墓石が建てられた。

 先日グリーンウッドを散歩していたとき、墓石を建てている現場に遭遇した。墓の製作者が親切にも話をしてくれた。故人に合った墓石を作ることが「私に定めらた仕事」だと、彼女は誇らしげに言った。その墓は、明らかに葛飾北斎の『神奈川沖浪裏』をイメージしたものだった(富士山と小船は省略されていたが)。

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 埋葬される女性(低カロリー甘味料「スイートンロー」の創業者アイゼンシュタット家の1人)は、アジアアートの愛好者だったという。墓石となる花崗岩はジンバブエ産で、台座の石はイングランド産だそうだ。1つの墓のために多くの努力が払われていることがわかった。

 グリーンウッド墓地には興味深い記念碑がたくさんあるが、際立つのは1776年のブルックリンの戦いを記念して建てられた碑だ。ブルックリンの戦いは、アメリカの独立宣言が採択された後に、ジョージ・ワシントン率いる大陸軍(独立軍)とイギリス軍の間で行われた戦争だ。ニューヨーカーの間でこの戦いが話題に上ることはないが(実際、この戦いを知っている人は50人に1人くらいだろう)、戦いはブルックリンの広い範囲で繰り広げられた。グリーンウッド墓地のある小高い丘バトルヒルも戦場の1つになった。

 結果は英国軍が大勝。大陸軍はブルックリンからマンハッタンへ逃れたが、再び負けてニュージャージー州とペンシルベニア州へ退陣を余儀なくされた。

 それでも大陸軍はイギリス軍との戦いをやめなかった。ワシントンは自分が独立国の大統領に就任し、、、大陸軍をその国家軍にするという理想を保ち続けた。ブルックリンの戦いでの敗北があったからこそ、最終的に独立を勝ち取ったといえる。

 バトルヒルにはブルックリンの戦いを記念して、自由の祭壇と戦いの女神ミネルバの像が建てられている。ミネルバ像の左手は、リバティー島に立つ自由の女神に向けて高く掲げられている。そして自由の女神もまた、真っすぐにバトルヒルのほうを向いている。

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プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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