コラム

ニューヨークの歩き方10カ条

2009年08月21日(金)12時40分

 徒歩は優れた交通手段だ。地下鉄に乗るよりも、たくさんのものを見たり、経験したり、発見することができるし、運動にもなる。時間や天気が許すかぎり、みんな歩いたほうがいい。

 もっとも、歩くのに適した場所というのがある。カントリーライフの良さが何かと強調されているが、実は都会のほうが歩くのに都合がいい。ハイキングツアーに参加するのでもないかぎり、田舎道を歩くのは大変だ。舗装された道路はないし、車は時速80キロで横を突っ走って行く。見るべきものが点在していて、その間を行くのに数時間もかかる(見るべきものと言っても、数羽のアヒルがいる池や郵便局、パブぐらいなものだが)。標識も通行人もほとんどないから、40分もたってようやく道を間違ったことに気付く羽目になる。

 その点、都会は歩くのに適している。とりわけニューヨークは、地球で最も歩くのに適した場所と言えそうだ。自然と人間が作り出した両方の驚きを味わえるし、何より道がわかりやすい。僕が滞在中に学んだ「ニューヨークの歩き方10カ条」をお教えしよう。

 マンハッタンの歩きやすさは有名だ。その秘密は碁盤の目状の道路にある。北から南へ向かうアベニューと、東から西へ向かうストリートで構成されているうえ、道路の名前には数字が順番についているから、非常にシンプル。自分がどの位置にいるかをいちいち確認せずに済み、歩くペースが乱れることがない。

 ニューヨーカーの歩くスピードはとても速い。都会の人は田舎の人よりも早く歩くとされているが、07年のイギリスのある調査によると、都会人の歩くスピードはその10年前より1割増しているという(人々が以前よりせわしないと感じていることの証拠でもある)。僕は普通の都会人よりもかなり速く歩く。それでもマンハッタンでは、簡単に追い越されることがある。ときには、僕より15センチは身長が低い小柄な女性にも。

 そうした女性たちには、スニーカーを履いて街を闊歩する人が少なくない。オフィスに着いたらハイヒールに履き替えるのだ。でも、その光景はなんだか妙だ。クールなスーツを着て、足には白いテニスシューズ。そんな姿で駅へ向かって猛スピードで歩いていくのだから。

 ニューヨークを歩くときの目標は、目的地にたどり着くまで一度も信号につかまらないこと。そのためには、北へ向かって10ブロック1度に歩くのではなく、西へ行ったり北へ行ったり、ジグザグに歩くのがコツだ。そうすれば、一度も止まらずにたどり付ける。

 信号が赤でも道を渡ることができる。渋滞の激しい通りなら、ちっとも動かない車の間をぬえばいい。車の少ない通り(思いのほか多い)では、もちろん赤でも渡れる。アメリカの多くの都市は、「ジェイウォーク(交通規則を無視して道路を横断すること)」を厳しく取り締まっている。でも、ニューヨークは違う。

 東西南北に真っすぐに伸びる道路が多いなか、ブロードウエイだけは例外だ。北に向かって西のほうに曲がりくねっている。これは先住民が使っていたルートの名残りだ。彼らは斜めに横切ったほうが目的地に早く着くことを知っていた。残念ながら、今ではそれは当てはまらない。大勢の観光客がうろうろするタイムズスクエアを素早く通り抜けるのは楽じゃない。

 同じ理由から、イースト川を超えるときは、混雑しているブルックリン橋よりマンハッタン橋を渡ったほうがいい。この2つの橋はそう離れていないが、マンハッタン橋ではせいぜい10人程度の人しか見かけない。その一方で、ブルックリン橋にはその100倍の通行人がいるはずだ。

 マンハッタン南部を東西に横断するカナルストリートも避けたほうがいい。一方の端はブルックリンへと続く道へつながり、もう一方の端はニュージャージーへ向かうくトンネルと接続している道だが、車の渋滞は切れ目がないし、歩道も混んでいる。それになんといっても、チャイナタウンとリトルイタリーを通過する。夏場はレストランや店が出すゴミが悪臭を放っている。

 セントラルパークを歩くのは楽しいが、急いでいるときには気をつけよう。コンクリートジャングルを抜け出して緑を楽しむことができるものの、街中と違って道路は曲がりくねっていて、注意していないと、東へ向かっているはずだったのが、いつの間にか北へ向かっているなんてことも。ニューヨークに来てまもないころ、公園の中を西から東へ抜けるのに60分以上掛かったことがある。おまけに行きたかったのは南だった! セントラルパークが街を二分していることも忘れずに。夜間は街の西側と東側のどちらに行くのか、きちんと確認しておいたほうがいい。暗い中で東92丁目から西92丁目に移動するのは至難の業だ。

10 碁盤の目にも限界がある。ヒューストン通りより以南では道路名は数字ではなく名前になっているが、ヒューストン通りの以北ですでに法則は崩れている。1丁目はマンハッタンを横断するのではなく、東側にわずか数百メートル伸びているだけ。西4丁目は、なぜか西13丁目と交差している。世界1歩きやすいはずのマンハッタンも、実はそれほど合理的ではなかったのかもしれない。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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