コラム

EU、結束阻むハンガリー「封じ」に本腰...親露貫くオルバン政権に波乱の予感

2025年04月16日(水)12時15分

最もよく話題に上るのが、「核兵器」とも呼ばれる欧州連合条約の第7条を行使するというもの。EUの法の支配に体系的に違反すると、加盟国の議決権を剥奪できるという条項だ。

この条項を使うことを支持する人たちは、ハンガリーが2025年3月に制定した「LGBTパレード禁止法」が根拠になると指摘している。これは、LGBTなど性的少数者のパレードを禁止する法律だ。表現の自由の侵害、少数派の人権の侵害であり、EUの条約にうたわれた基本精神に違反しているので、第7条を発動できる──という主張である。

しかも、この「LGBTパレード禁止法」は、参加者を顔認識システムで特定し、最大20万フォリント(約8万円)の罰金を科すというものだ。

しかし、実現するかは微妙なところだ。第7条を発動するには、対象国ハンガリーを除く全会一致が必要である。1カ国でも反対したら発動できない。

イタリアのジョルジャ・メローニ首相は賛成するだろうか。現在は三党連立内閣だが、三党とも大変保守色が強い。LGBTに対して否定的な政策をとっている。

スロバキアはどうだろう。ロベルト・フィツォ首相はオルバン氏と並ぶ親露派と言われ、ハンガリーに対する制裁を「決して」支持しないと断言した。しかし、フィツォ首相の言動は、国内とEUの本拠地ブリュッセルとでは異なるという評価は、よく聞かれる。

3兆円凍結でも親露を貫く

次に挙げられるのは金融制裁だ。これはハンガリーを追い詰める手段というべきだろう。

法の支配からの逸脱を防ぐため、EUでは2020年、「欧州基金から資金を受け取るには、法の支配を尊重していなくてはならない」という、条件付きのメカニズムを採用した。

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。個人ページは「欧州とEU そしてこの世界のものがたり」異文明の出会い、平等と自由、グローバル化と日本の国際化がテーマ。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。元大使インタビュー記事も担当(〜18年)。ヤフーオーサー・個人・エキスパート(2017〜2025年3月)。編著『ニッポンの評判 世界17カ国レポート』新潮社、欧州の章編著『世界で広がる脱原発』宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省庁の仕事を行う(2015年〜)。出版社の編集者出身。 早稲田大学卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

スターバックス、中国事業経営権を博裕資本に売却へ 

ワールド

クック理事、FRBで働くことは「生涯の栄誉」 職務

ワールド

OPECプラス有志国の増産停止、ロシア働きかけでサ

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、FRB12月の追加利下げに
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつかない現象を軍も警戒
  • 3
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った「意外な姿」に大きな注目、なぜこんな格好を?
  • 4
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 9
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 10
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story