コラム

ファイザーワクチン「5回」問題はなぜ起きたのか。特殊な注射器なら6回分、米欧では1カ月前に表面化していた

2021年02月12日(金)13時00分

一方のアメリカでは、『ニューヨーク・タイムズ』によると、何週間もの間、ファイザーの幹部が、アメリカ食品医薬品局の役人に、小瓶には5回分ではなく6回分の投与量が含まれていることを正式に認めるように働きかけていた。

ファイザー社と連邦政府との契約では、投与量での支払いが義務付けられている。そして、公衆衛生への深刻な影響があった。1瓶6回分になれば、ワクチン接種のペースを加速させることができるようになるだろう。

ファイザーの幹部は、政府がこの要求を承認することを躊躇していると、連邦ワクチン規制当局のトップに怒りをぶつけたという情報もある。

1月6日、やっとアメリカ食品医薬品局は、医師が小瓶に6回目の投与量が含まれていることを確認するためのファクトシートの文言を変更した。これは、世界保健機関(WHO)と欧州医薬品庁(EMA)の表示更新を反映したものだと、同紙は伝えている。

つまり、躊躇するアメリカ政府の後押しをしたのは、EUとWHOの動きだったといえるだろう。様々なパイプを通して彼らはつながっていて、話し合ったりプレッシャーをかけたりしていたのではないか。

その背景にあるのは、ワクチン不足なのだから、少しでもワクチンを無駄にしたくないという現場からの声だったのではないだろうか。ましてやファイザー製は、今世界で最高の品質を認められているのだ。決して無駄にせず、一人でも多くの人に投与したいという、関係者の願いだったのに違いない。

ファイザー社の対応と混乱

このような経緯のために、今までは6回目がとれると「ボーナス」とみなされていたのだが、今は変化した。ファイザー社は、小瓶には6回分入っていると考えるようになった。

6回分あるのなら、計算上では2割以上多い人々に投与できるようになる。これは歓迎されるべきことには違いない。ワクチンは世界中の人が望んでいるのだから。

ただ、問題がある。

フランスを始め複数の国の契約は、小瓶単位ではなくて、用量(回数)である。1瓶が5回分ではなくて6回分となったことで、ファイザー社は、同じ価格で20%分、小瓶の数を少なく提供することになるのだ。

今までは、100回分なら20瓶納品しなければならなかった。今後は16−17瓶で済むということになる。

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。個人ページは「欧州とEU そしてこの世界のものがたり」異文明の出会い、平等と自由、グローバル化と日本の国際化がテーマ。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。元大使インタビュー記事も担当(〜18年)。ヤフーオーサー・個人・エキスパート(2017〜2025年3月)。編著『ニッポンの評判 世界17カ国レポート』新潮社、欧州の章編著『世界で広がる脱原発』宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省庁の仕事を行う(2015年〜)。出版社の編集者出身。 早稲田大学卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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