コラム

ファイザーワクチン「5回」問題はなぜ起きたのか。特殊な注射器なら6回分、米欧では1カ月前に表面化していた

2021年02月12日(金)13時00分

実際、ファイザー社は、1月18日の週にフランスへのワクチン納入について、「当初の納入スケジュール」で予定していた小瓶を、52万本から38万5000本に削減してしまった。

5回分しか取れなかったらどうなる?

......しかし、適した注射器の不足により、1瓶から5回分しかとれなかった場合、どうなるのだろうか。お金は回数分(用量分)きちんと払っているのに、それに応じた瓶の数が足りないということになる。どうやって集計するのかも、難しそうである。

この疑問は、日本に関しても同じだ(後述)。

今のところ、EUは、同社のこの決定に反応していない。

奇怪なことに、同社によると、6回目の投与量の使用が許可されたことと、配送量の減少との間には「直接的な因果関係はない」としている。これは「ベルギーの弊社のサイトで進行中の調整」によるものであるとしているのだ。

何か含みがありそうだ。法的な自己防御なのだろうか。同社は「用量で契約しているのだから、この6回目の投与は、顧客には追加コストとはならない」と話しているが。

大変ややこしいのだが、確かにEUやアメリカの当局が「6回分入っている」と認めたことで、現場の医療従事者は6回分使うことができるようになった。ただし、6回分使って良いのと、「この製品は1瓶6回分です」というのとは、どうやら違うようなのだ。

フランスの保健省は、AFP通信によると、このような「医療処置」と、適切な「器具」を必要とする6回目分の抽出は「本当に挑戦である(=難しい)」と述べているということだ。

imai2021104301.jpg
2月8日、アストラゼネカ社のワクチンを接種するヴェラン保健大臣。40歳。マクロン大統領43歳。若い二人がコロナ対策を進める。(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

現場はどうなっている? フランスの例

ただ、フランスに関して言えば、それほど大問題にはなっていない。

新たな注文は届くのが遅れているものの「1月31日の週には、6回目の投与に適応するための補完キットの最初の納品が、1000万届く予定である」、さらに「3月15日までには、8200万ユニット届く」という。

さらに、6回目の投与が発表される前に注文した注射器等について、オリヴィエ・ヴェラン保健大臣は、確認した結果、86%が6回目の投与に適したものであると発表した。このことは、独立した外部機関のテストによっても確認されたということである。

日本より状況が切迫しているとはいえ、なんという対応の整備と素早さだと感心する。ただ、他のEU加盟国はどうなのかは、まだ情報をつかんでいない。

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。個人ページは「欧州とEU そしてこの世界のものがたり」異文明の出会い、平等と自由、グローバル化と日本の国際化がテーマ。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。元大使インタビュー記事も担当(〜18年)。ヤフーオーサー・個人・エキスパート(2017〜2025年3月)。編著『ニッポンの評判 世界17カ国レポート』新潮社、欧州の章編著『世界で広がる脱原発』宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省庁の仕事を行う(2015年〜)。出版社の編集者出身。 早稲田大学卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、156円台前半 FRB政策

ワールド

米下院特別委、中国軍の台湾周辺演習を非難 「意図的

ワールド

仏独英、中国の台湾周辺軍事演習に懸念表明 一方的な

ワールド

サウジ、イエメン南部の港を空爆 UAE部隊撤収を表
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 5
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 6
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 7
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 8
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 9
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 10
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story