コラム

イラン「人質外交」でフランス人に禁錮8年、日本にとっても全く人ごとではない

2022年02月15日(火)17時29分
米大使館人質事件

79年のアメリカ大使館人質事件が成功体験に? MOHSEN SHANDIZーSYGMA/GETTY IMAGES

<外国人を拘束して「人質」にし、交渉を有利に進めようとするイラン。同じことは中国も実施しており、どちらも日本にとって無関係ではない問題だ>

イランの裁判所は1月、フランス人のベンジャミン・ブリエールにスパイ容疑で禁錮8年の有罪判決を下した。ブリエールがイラン当局に拘束されたのは2020年5月で、その時はイランのトルクメニスタン国境近くでドローンを飛ばしたのが理由だとされた。

ところが今になって、イランの敵国に協力したスパイだという罪が付け加えられた。彼の弁護士はイラン政府について、仏国民を恣意的に拘束し交渉材料として利用するための人質にしていると批判した。

人質外交はイラン建国以来の「伝統」だ。これはイラン・イスラム革命によりパーレビ王朝を打倒した1979年、渡米した元国王の身柄引き渡しを要求する自称「革命家」のイラン人学生たちが、首都テヘランの米大使館を襲撃して52人のアメリカ人外交官らを人質に取り、444日間にわたって監禁したことに始まる。

現在イランが国際社会に要求しているのは、制裁の解除である。イランは2015年、米仏英独ロ中といわゆる「イラン核合意」を締結。核開発を制限する見返りとして対イラン制裁は段階的に解除された。

しかし米トランプ政権は18年、同合意によりイランの脅威はむしろ増しているとしてここから離脱し、イランに対し最大の圧力をかける政策へと転換した。

制裁を全て解除すれば核合意再建に取り組む、というのがイランの主張だ。核合意再建のための会議は昨年12月にウィーンで再開されたが、イランの望むような進捗はみられない。ロイター通信はフランスについてイランに対し他国より厳しい姿勢で臨んでいるとみられる、と伝えている。

かつての「人質」は抗議のハンスト

1月、イランはブリエールを禁錮8年の有罪に処しただけでなく、20年に禁錮5年の判決を受けたもののいったん釈放されたフランスとイランの二重国籍を持つ研究者のファリバ・アデルカを再び投獄した。

こうしたなか、イランの人質外交に抗議すべくウィーンでハンガーストライキを行ったのが、かつてテヘランで444日間拘束された米外交官の1人バリー・ローゼンだ。彼は欧米諸国が人質外交に屈してイランの要求に応じる限り、イランはこの卑劣な手段を手放さないだろうと警告し、国際社会に連携を呼び掛けた。

イランでは今も、米英仏豪などの国籍を有する外国人10人以上が投獄されているとみられる。

核協議を担当している米国務省イラン担当特使ロバート・マリーはローゼンとの面会後、「罪のない4人のアメリカ人がイランに人質として拘束されたまま核合意に戻るのは難しい」と述べた。

プロフィール

飯山 陽

(いいやま・あかり)イスラム思想研究者。麗澤大学客員教授。東京大学大学院人文社会系研究科単位取得退学。博士(東京大学)。主著に『イスラム教の論理』(新潮新書)、『中東問題再考』(扶桑社BOOKS新書)。

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