コラム

リバプールFWサラーの「メリークリスマス」炎上が示す「イスラム教の内紛」

2022年01月18日(火)20時15分

宗教界もこの方針には協力的だ。エジプト最高位の法学者シャウキー・アッラームが12月、イスラム法はクリスマスを祝うことを禁じていない、預言者の1人であるキリストの誕生を祝福することはイスラム教信仰と矛盾しないというファトワ(イスラム法的見解)を出した。

一方、これに納得しないイスラム教徒も多くいる。サラーの投稿に対して、「毎日『彼は生みも生まれもしない』と読みながら、彼が生まれた日を祝うとはどういうことだ」と『コーラン』第112章を引用して批判する投稿もある。イスラム教において神は誰かから生まれたわけではなく子を生むこともないとされているのに、キリスト教で神の子とされるイエスの誕生日を祝うとは大いなる矛盾だという意味だ。

拙著『イスラム2.0』(河出新書)で論じたように、現代のイスラム教徒は宗教の専門家でなくてもコーランを引用し、イスラム的見解を示すことができる。サラーは20年のクリスマスにも同様の投稿をし、同じように炎上した。彼は炎上を全く意に介していないようだ。

敬虔なイスラム教徒でありつつクリスマスを祝うことをいとわない彼は、SNS時代の変わりつつあるイスラム教徒の象徴的存在と言える。

MOHAMED SALAH/TWITTER
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プロフィール

飯山 陽

(いいやま・あかり)イスラム思想研究者。麗澤大学客員教授。東京大学大学院人文社会系研究科単位取得退学。博士(東京大学)。主著に『イスラム教の論理』(新潮新書)、『中東問題再考』(扶桑社BOOKS新書)。

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