コラム

アメリカで起きている偽情報対策へのバックラッシュ

2023年07月03日(月)19時45分

この動きに右派メディアや団体、評論家などが同調し、批判が広がっている。批判は研究内容に留まらず、個人攻撃にまで発展している。America First Legalという団体はすでに研究者たちに対して訴訟を仕掛けている。

ツイッターのイーロン・マスクが同社と政府関係者のやりとりを公開したこともこうした批判に拍車をかけている。政府関係者がSNSプラットフォームとやりとりすることは珍しいことではなく、世界中の関係機関が削除要請や情報提供要請などを行っていることは、SNSプラットフォームの透明性レポートを見れば一目瞭然だ。それでも生々しいやりとりのメールが公開されればインパクトがあるし、透明性レポートの存在を知らない人もいるだろう。ただし、ツイッターはイーロン・マスクがCEOに就任してから透明性レポートの公開をやめている。

さらに、2022年4月27日に発表された偽情報対策のための諮問機関、国家安全保障局(DHS)Disinformation Governance Board(DGB)は下院の共和党を中心とした猛烈な反発と批判の嵐に見舞われて、わずか3週間で活動を停止した。DGBは真実省(ジョージ・オーウェルの小説「1984」に登場する省)だという批判もあった。

もちろん、DGBはこれらの主張に反論している。退任したDGBのリーダーは、DGBに対する一連の反発そのものがDGBの必要性を物語っていると語っている。

本質的な議論というより、政治闘争の場になっており、問題そのもの以上に政治的な効果が優先されているようになってしまっている。

対症療法の偽情報対策と、政争のための議論

現在、アメリカの下院では共和党が多数派となっている。共和党はトランプを輩出しただけでなく、QAnonといった陰謀論などの信奉者が多いことでも知られている。何度か書いたことがあるが、アメリカでは社会の分断が進んでおり、内戦が危惧される程度に危険な状態となっている。その分断を象徴するのがアメリカの2大政党民主党と共和党の分断だ。両党の支持者の間のギャップは以前に比べて大きく広がっている。

そして両党は選挙のたびに国内向けのネット世論操作を行っている。政策としての偽情報対策がこうした状況の政党に委ねられていることは、それぞれの政党が主張する対策には偏向があると考えた方がよいだろう。少なくとも自党が行っているネット世論操作を否定するような対策を提案することはできないだろう。つまり本質的な問題である国内への対策は対象外となる。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

午後3時のドルは158円前半で横ばい、ドルと円の売

ワールド

焦点:「米国売り」再燃の観測、グリーンランド巡るト

ビジネス

仏産ワインに200%関税とトランプ氏、平和評議会参

ワールド

イスラエル軍でPTSDと自殺が急増、ガザ戦争長期化
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:「外国人問題」徹底研究
特集:「外国人問題」徹底研究
2026年1月27日号(1/20発売)

日本の「外国人問題」は事実か錯誤か? 7つの争点を国際比較で大激論

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「耳の中に何かいる...」海で男性の耳に「まさかの生物」が侵入、恐怖映像と「意外な対処法」がSNSで話題に
  • 2
    「死ぬところだった...」旅行先で現地の子供に「超危険生物」を手渡された男性、「恐怖の動画」にSNS震撼
  • 3
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向」語る中、途方に暮れる個人旅行者たち
  • 4
    中国のインフラ建設にインドが反発、ヒマラヤ奥地で…
  • 5
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の…
  • 6
    中国、欧米の一流メディアになりすまして大規模な影…
  • 7
    【総選挙予測:自民は圧勝せず】立憲・公明連合は投…
  • 8
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世…
  • 9
    AIがついに人類に「牙をむいた」...中国系組織の「サ…
  • 10
    中国ネトウヨが「盗賊」と呼んだ大英博物館に感謝し…
  • 1
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率が低い」のはどこ?
  • 2
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世界一危険」な理由
  • 3
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試掘の重要性 日本発の希少資源採取技術は他にも
  • 4
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 5
    正気を失った?──トランプ、エプスタイン疑惑につい…
  • 6
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の…
  • 7
    「高額すぎる...」ポケモンとレゴのコラボ商品に広が…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 9
    世界最大の埋蔵量でも「儲からない」? 米石油大手が…
  • 10
    【銘柄】「住友金属鉱山」の株価が急上昇...銅の高騰…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story