コラム

アメリカ大統領選は、ネット世論操作の見本市 その手法とは

2020年10月02日(金)18時15分

もともとは民主党がデジタル・マーケティングで先行していたが、トランプ陣営には遅れを取っている REUTERS/Leah Millis

<アメリカのネット世論操作の歴史はロシアよりも古く、現在も積極的に新しい手法を開発し、活用している。アメリカの大統領選はネット世論操作の見本市と言ってよいだろう...... >

これまでアメリカと日本の犯罪「事前」捜査(生体認証、SNS監視、予測捜査)という監視活動について見てきた。今回はネット世論操作についてご紹介したい。ネット世論操作ではロシアがアメリカ大統領選に干渉したことが有名だが、通常は国内から行うことが多い。ロシアも中国もまず国内のネット世論操作の体制を確立した。アメリカと日本でも国内向けのネット世論操作を行っている。

実はアメリカのネット世論操作の歴史はロシアよりも古く、現在も積極的に新しい手法を開発し、活用している。それらが集中的に使用されるのは大統領選なのだ。つまりアメリカの大統領選はネット世論操作の見本市と言ってよいだろう。日本のネット世論操作も若干遅れてスタートしたものの広がりを見せている。

現在、アメリカで行われている主なネット世論操作を表にすると次の表のようになる。

ichida1002bb.jpg


そして同時にロシアや中国などが行っているものとも似ている。特にロシアと酷似している。アメリカは2010年の選挙戦において、世界で初めてボット(プログラムで自動的に投稿やリツイートなどを行うアカウント)を用いたネット世論操作を行った国である。ロシアは先達であるアメリカの手法を研究している節がある。その一方で、ロシアの最新の手法をアメリカがなぞっている部分もある。そして日本はそれらの国を追っている。結果として、ロシア、アメリカ、日本はネット世論操作においては似通ってきている。

今回は主として為政者や政権党が国内に向けて行うネット世論操作を中心に取り上げる。その理由は単純で政権を握っている者の方が資金、手段などがそうでない者よりもはるかに多いからである。それ以外のネット世論操作はそのサブセットにすぎない。アメリカの場合だと2大政党(どちらも政権を握る可能性があるが、今回は共和党=トランプ陣営中心)および政府、日本だと自民党(自民党以外は政権を取る可能性が低く、取っても長期政権にはならない)および政府ということになる。

ネット世論操作には相手のネット世論操作を妨害する防御と、こちらの主張の支持を広げるもしくは相手を攻撃する攻撃のオペレーションがある。政権を握っている場合、行政組織を動かせるので有利である。たとえば各国でフェイクニュース対策法のほとんどは、ドイツなど一部の例外をのぞいて政権が敵対者を攻撃するために用いられている(『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』角川新書)。

アメリカはネット世論操作先進国

アメリカでボットを用いたネット世論操作が行われたのは前述の2010年の選挙においてだったが、最初の本格的な研究は2011年のDARPA(国防高等研究計画局)がおよそ50億円を投じて行ったSocial Media in Strategic Communication (SMISC) programになる。このプロジェクトは防御と攻撃の両方を研究対象としていた。

アメリカのネット世論操作は広範なため、かいつまんでご紹介する。

2011年にはThe Center for Strategic Counterterrorism Communications(CSCC)が国務省、国防総省、国土安全保障省および同盟国のツイッターアカウント350以上を管理し、ジハードおよび過激派のネット世論操作に対抗していた。YouTubeでもISISと議論し、ISIS支配下の地域を荒廃した地獄のように見せる動画を投稿した。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請、6000件減の21.6万件 低

ワールド

サルコジ元大統領の有罪確定、仏最高裁 選挙資金違法

ワールド

香港の高層複合住宅で大規模火災、13人死亡 逃げ遅

ビジネス

中国万科の社債急落、政府が債務再編検討を指示と報道
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 2
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 5
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 6
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 7
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 8
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 9
    「世界の砂浜の半分」が今世紀末までに消える...ビー…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 6
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 7
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 8
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story