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イーロン・マスクはジオン・ダイクンの夢を見るか?──ビッグテックが宇宙を目指すほんとうの理由
現在、地球を汚染している生産設備などを地球外のコロニーに移し、多くの人間はそこで生活するようになる未来だ。地球は住宅地や軽工業地帯として整備され、居住したり訪れしたりするための美しい場所として残される(ケイト・クロフォード)。
ベゾスの描く未来は我々がアニメで見た未来に近いかもしれない。X Prizeの創設者であるピーター・ディアマンディスのPlanetary Resources社には、グーグルのラリー・ペイジとエリック・シュミットが出資し、小惑星を掘削して宇宙で初の商業鉱山を作ることを目指している。
果たしてビッグテックは本当にテクノ・ユートピアを信じ、新しい時代を作ろうとしているのだろうか? イアン・ブレマーは、ビッグテックが宇宙や金融の新しい領域にビッグテックが積極的に踏み込んでいく動機についてはくわしく紹介していないが、マイクロソフトリサーチの上級首席研究員であり、AIナウの創設者であるケイト・クロフォードがその意図を暴いている。
ビッグテックは新しい世界を拓こうとしているが、それは決して人類の可能性を追求するためではない。ビッグテックには規制に縛られない世界、国家の呪縛が弱い世界、自由に利益と成長と独占を謳歌できる世界が必要なのだ。ビッグテックが法制度の不備を利用して、成長してきたことはショシャナ・ズボフの『監視資本主義』(東洋経済新報社、2021年6月25日)でも指摘されている。加えて政府からの援助や優遇措置も受けていた。
宇宙進出に当たっても20世紀の公的な宇宙計画の情報やインフラの利用、政府の資金や税制上の優遇措置にも頼っていることがわかっている。正確に言うなら、それなしではビッグテックは成り立たない。
かつてインターネットがそうだったように、宇宙と金融あるいはメタバースでなら国家の介入を最小限にしつつ、優遇措置の甘い汁を吸える。ビッグテックの影響力をもってすれば、国際法で宇宙空間では国家の領有を認めさせない一方で、私企業の進出は許されるようにできる可能性もある。税制上の優遇措置も勝ち取れるだろう。そして住民がすべてスペースX社員である企業コロニーを作れる。企業は事実上の自治組織として存在し、コロニーは完全に監視、制御されたスマートシティとなり、全ての住民の行動と精神は監視下におかれ、必要に応じて行動や情動も誘導される。イーロン・マスクは君主あるいはビッグ・ブラザーとなる。
イーロン・マスクはジオン・ダイクンの夢を見るか?
冒頭でイーロン・マスクが、ジオン・ズム・ダイクンに重なって見えると書いた。しかし、大きく異なる点がある。ジオン・ズム・ダイクンは理念を抱き、その人生を捧げた人物だが、イーロン・マスクが捧げるのは世界一の富豪となった自身の資産と崇高なミッションに参加する意欲に燃えたボランティアたちの命だ(ケイト・クロフォードの『Atlas of AI』にもマスクの言葉として「first astronauts must "be prepared to die."が紹介されている)。
世界の多くの国の民主主義が理想とはかけ離れたものであるように、テクノ・ユートピアもビッグテックが語る夢物語とは異なる現実として姿を現す。
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