コラム

日本でワクチンにまつわるツイートはどう広がったのか 215アカウントが影響を与えていた

2021年03月17日(水)17時30分

コロナに対処している組織や報道機関の発信する情報よりも、一般人と医療クラスタが流す情報の方が圧倒的に多くリツイートされ、拡散していた

<3月初旬1週間に「ワクチン」という言葉を含むツイート80万件を集計・分析した。そこから見える日本のツイッター世界の傾向とは...... >

2月28日から3月6日までの1週間にわたって「ワクチン」という言葉を含むツイート841,180件について集計、整理した結果をご紹介したい。

これまで5大政党福島県沖地震での外国人関連に関するツイート統計をご紹介してきた。5大政党に関するツイートでは79.28%、福島沖地震外国人関連では93.58%と、いずれもリツイートが大きな割合を占めていた。今回のワクチンのリツイート率は76.69%と他の2つよりは低いものの高い水準である。

全体の0.12%のツイートが全体の50%まで拡散されていた

特筆すべきはたった1,032件(全体の0.12%)のツイートが全体の50%まで拡散されていることと、わずか215アカウント(全体の0.08%)が発信源だったことだ。215アカウントのおよそ70%は一般人(インフルエンサー、ブロガーなど)と医療クラスタ(医療関係者あるいは研究者などであると名乗っているアカウント)と呼ばれる人々のものである。報道機関のアカウントも上位にランクインしているが、その割合は10.77%にすぎない。行政アカウントと政治家アカウントはいずれも4%台だ。

ツイートのピークは朝の8時から10時、昼の12時から14時、夜の22時から23時の3つの時間帯で、投稿から1,2時間の間にもっとも拡散され、その後急速にリツイートは減少する。ツイートの内容や信頼性よりも自分のタイムラインに流れてくるもの(フォローしているアカウントからの)をリツイートしていることがうかがえる。

また、自分のとって心地よい情報しか流れてこない状態=エコーチェンバー現象に陥っている可能性が高く、陰謀論やデマが広がった場合、払拭することが難しい。その一方で拡散のメカニズムはシンプルで影響力のあるアカウントの特定も容易なため、実態を踏まえて効果的なコミュニケーションの仕組みを作ることも可能と考えられる。同じ理由でネット世論操作も容易に行うことができる懸念もある。なお、集計、整理のためのコードや技術的な内容やデータを拙ブログに掲載した。

3つのピークの時間帯と全体を左右する215アカウント

2021年2月28日から3月6日までの1週間にわたって、「ワクチン」という言葉を含む全ツイートを収集し、集計、整理した。その結果から下記がわかった。なお、リツイート数は1週間の調査期間の間にリツイートされた件数を指している。

「ワクチン」を含むツイートの総数は841,180件で、そのうちリツイート(RT)は645,102件(全体の76.69%)、ツイートしたアカウントは278,916個となっていた。1,032件のツイート(0.12%)のRTが全体の50%を占めており、この1,032件のツイートは215アカウントが発信したものだった。つまり、215アカウントのツイートが全ツイートの半分までに拡散したことになる。

ichida20210317b.jpg

ichida20210317c.jpg

全体の50%に拡散した1,032件のツイートの内容を大きく「情報提供」(信頼できる情報源からの情報、ニュースなど)、「呼びかけ」(問題ある発言をさとす、正しい行動を呼びかけるなど、提案するなどで基本ポジティブ)、「批判」(政府、メディア、特定団体などへの批判で基本ネガティブ)、「不確か」(根拠のない憶測、デマ、ミスリードなど不確かな情報、言説、陰謀論)、「その他」に分類して、リツイート件数を比較した。もっとも多かったのは「情報提供」(39.51%)であり、次いで批判(34.22%)、呼びかけ(14.05%)となっていた。根拠のない噂やデマなどが広く流布するような状況にはなっていなかった。

ichida20210317d.jpg

全体の50%に拡散したツイートの発信源である215アカウントのプロフィールを、一般人、医療クラスタ、医療関係(医療関係組織のアカウント)、行政(行政組織のアカウント)、政治家(政治家およびその事務所のアカウント)、報道機関(報道機関およびその配信を行っているサイト)、文化人(ジャーナリスト、ライター、漫画家、小説家、医療クラスタに含まれない大学教授や専門家など)分類し、そのリツイートされた数を集計した。多い順に一般人(43.93%)、医療クラスタ(23.37%)、文化人(12.62%)、報道機関(10.77%)となった。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

プーチン氏とトランプ氏、公表の2回以外にも対話した

ビジネス

欧州の中銀や金融当局、FRBの緊急時のドル供給を懸

ビジネス

TikTok米事業、既存株主が出資比率引き上げか=

ワールド

イスラエルがガザの病院空爆、ハマス政治指導者含む5
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平
特集:2025年の大谷翔平
2025年3月25日号(3/18発売)

連覇を目指し、初の東京ドーム開幕戦に臨むドジャース。「二刀流」復帰の大谷とチームをアメリカはこうみる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放すオーナーが過去最高ペースで増加中
  • 3
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 4
    ロシア軍用工場、HIMARS爆撃で全焼...クラスター弾が…
  • 5
    コレステロールが老化を遅らせていた...スーパーエイ…
  • 6
    ドジャース「破産からの復活」、成功の秘訣は「財力…
  • 7
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 8
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「レアアース」の生産量が多…
  • 10
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャース・ロバーツ監督が大絶賛、西麻布の焼肉店はどんな店?
  • 4
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 5
    失墜テスラにダブルパンチ...販売不振に続く「保険料…
  • 6
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 7
    【クイズ】世界で2番目に「レアアース」の生産量が多…
  • 8
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 9
    古代ギリシャの沈没船から発見された世界最古の「コ…
  • 10
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 10
    「若者は使えない」「社会人はムリ」...アメリカでZ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story