コラム

日本のツイッター政治空間はリツイートが80% 政党に関するツイートを分析した

2021年02月17日(水)18時00分

ワードクラウドから見える少数アカウントの影響力

数字だけでは内容が直感的に把握しにくいと考え、リツイート数上位のツイートの視認に加えてテキストマイニングを行い、「名詞、動詞、形容詞」、「動詞」のみ、「形容詞」のみ3種類のワードクラウドを作成した。「形容詞」のみのワードクラウドにはまがまがしさを感じた。一見、中立あるいは肯定的に見える言葉も否定的に使われているものがほとんどである。「偉い」は「お偉い自民党」、「長い」は「女性の話は長い」という発言の引用など、「強い」は「自民党にその傾向が強い(批判的な文脈)」、「多い」は政党批判の文脈、「良い」は良い部分を殺しているというネガティブな使われ方、「凄い」と「よろしい」は批判のために引用した発言に現れた言葉だった。「おかしい」は「頭おかしい」など否定的な意味で使われていた。形容詞のワードクラウドは前段に掲載したので、ここでは「名詞、動詞、形容詞」と「動詞」を掲載する。

ichida0217_7a.jpg

ichida0217_8.jpg

ツイート全体のワードクラウドとリツイート数上位のワードクラウドの傾向は類似しており、たった1.7%のツイートが増幅されて全体に影響を及ぼしている様子がよくわかる。アカウント数で言うと3.82%のアカウントのツイートである。

少数の負の感情を刺激する批判に支配されやすい意見空間

全体を通して感じたのはリツイートの多さと、少数のツイートとアカウントの影響力の大きさである。よくリツイートされるアカウントの発言内容は政党への批判がほとんどを占める。限られたアカウントの批判的な意見が広く増幅される傾向があると言えそうだ。

ボットやトロールあるいはプロキシなどが疑われる状態だが、今回はそこまで踏み込むのは難しい。ボットやトロールの判別については目安となる資料もあるが、文化によって異なる可能性もあり、そのまま適用はできないだろう。少数の批判的な意見が拡散されやすい状況であり、すでにネット世論操作が行われているのでなければネット世論操作を行いやすい素地があるくらいまでは言ってもよいだろう。

前述のファビアン・シェーファー教授の先行研究ではネット世論操作の存在を示唆していたので、それを前提に今回の結果をみるとネット世論操作の影響力が高まっているように見える。ただし、あくまで私見だが、今回の調査のリツイート上位のツイート内容やアカウントを見た限りではネット世論操作とは言い切れないように感じた。より多くのデータと検討が必要だ。

前にも書いたが、本稿はあくまでも限定されたデータを元に考察した結果の仮説である。より確かなものにするには、地道にデータの収集と分析を積み重ねてゆくしかない。日本ではSNSに関する基本的なデータがあまり整理されていない。そのためのツールはすでにあるのだから、ツイッター社のフルデータにアクセスできる学術関係者の方の今後の活躍に期待したい。

筆者も調査を続けてゆくつもりであるが、いかんせん学術関係者ではないのでツイッター社の学術関係者向けのフルデータにアクセスする方法がない。フルデータにアクセスできれば仮説の検証はもちろん、多様な比較も行いやすくなる。時系列変化も追いやすくなる。過去の選挙で起きたこと、震災後に起きたことなどさまざまな分析が可能になる。

フルデータに比べると今回筆者が利用した無償で公開されているデータはデータ量の制限だけでなく、7日程度までしか過去のデータを見ることができない、リアルタイムで更新されるため同じデータを再現できない(ツイート削除、アカウント削除などによる変化の影響を受ける)といった制限があるため、きわめて限定的なことしか行えない。

学術関係者の方(修士課程や博士課程の方含む)でこうした調査に関心がある方がいらっしゃったら、お気軽に声をかけていただければ幸いである。非力ではあるができるだけのお手伝いをしたいと考えている。筆者にとってはフルデータに触れて実態を知ることができるのはなによりの喜びなのである。

最後に誤解のないように申し上げておくと、筆者はコードを書いたり、データ解析したいわけではない(嫌いではないが)。結果を見て解釈したり、妄想したりする方が好きなのである。しかしその元になるデータがいくら待っても出てこないので、やむなく自分で始めた次第である。本稿が国内の学術関係者の方々にツイッターの統計分析に関心を持っていただくきっかけになることを祈念している。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、EU産豚肉関税を引き下げ 1年半の調査期間経

ビジネス

英失業率、8─10月は5.1%へ上昇 賃金の伸び鈍

ビジネス

ユーロ圏総合PMI、12月速報値は51.9 3カ月

ビジネス

仏総合PMI、12月速報50.1に低下 50に迫る
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連疾患に挑む新アプローチ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    アダルトコンテンツ制作の疑い...英女性がインドネシ…
  • 9
    「なぜ便器に?」62歳の女性が真夜中のトイレで見つ…
  • 10
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 9
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story