コラム

トランプ「勝利」の先に待つ破滅

2023年04月11日(火)11時10分
トランプ

ニューヨークの裁判所で罪状認否に臨んだトランプ(4月4日) ANDREW KELLYーREUTERS

<トランプが再び共和党の大統領候補者指名を獲得する可能性が高まったが、あらゆる選挙で民主党が共和党を破る可能性も高まった>

アメリカ国民は、この粗野な男の顔を見続けることになりそうだ。元ポルノ女優に不倫の口止め料を支払ったとされる問題でドナルド・トランプ前大統領が起訴されたことにより、2024年の大統領選までアメリカの政治と社会、そして共和党がトランプの怒りの渦にのみ込まれることが確実になった。

トランプの数々の精神的な病理の中で最も根深いものは、「負け犬」と呼ばれることへの恐怖だろう。しかし、皮肉なことに、今回の起訴により、トランプが24年の大統領選で共和党の候補者指名を獲得できる可能性が高まった半面、トランプと共和党が大統領選やその他の選挙で厳しい戦いを強いられる可能性も高まった。その大きな要因は、以下の4つだ。

■共和党の支持層 あらゆる選挙で共和党の候補者選びのプロセスを大きく左右する中核的な支持層は、白人至上主義的で反動的な思想を持った極右の人々だ。そのため、大統領選の予備選ではトランプが党内の全ての対抗馬を退けるだろう。

こうした状況の下、共和党の政治家たちは、党の中核的な支持層の思想──多様性の尊重や、性に関する社会規範の変化、政府の役割の拡大、国際協調主義などへの憎悪と敵意──を受け入れざるを得ない。しかし、このような思想を持つ人たちはアメリカ社会全体の30%程度にすぎない。

■トランプの起訴 多くの共和党支持者に言わせれば、トランプの起訴は、文化的エリート層と非白人たちが伝統的な白人文化を取り除こうとしている「証拠」だという。セクシュアリティーや結婚の在り方、個人の自由、白人の優越性などに関する伝統的な考え方を排除し、「意識高い系」の社会を築こうとしている、というわけだ。

こうした思いを背景に、いま共和党支持者の間でトランプの支持率が再び上昇している。共和党から選挙に出馬しようとする政治家は、共和党支持層の怒りの感情を無視できない。ただ、そのような有権者は社会全体では決して多数派ではない。

■銃規制 4月6日、共和党主導のテネシー州議会は、民主党の2人の黒人議員を州議会から除名した。銃規制強化を求めて州議会議事堂に押しかけたデモ隊に同調して議会に混乱を招いたというのが理由だが、これにより、銃規制反対派は人種差別主義者だという印象が生まれてしまった。

その数日前、24年大統領選への出馬が取り沙汰されるフロリダ州のデサンティス知事(共和党)は、合法的に銃を所持できる人なら誰もが許可なしにどこででも(学校や裁判所でも)銃を隠し持つことを可能にする州法に署名した。しかし、米国民の大多数は、銃規制の強化を支持している。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ米大統領、日韓などアジア歴訪 中国と「ディ

ビジネス

ムーディーズ、フランスの見通し「ネガティブ」に修正

ワールド

米国、コロンビア大統領に制裁 麻薬対策せずと非難

ワールド

再送-タイのシリキット王太后が93歳で死去、王室に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 2
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任務戦闘艦を進水 
  • 3
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元に現れた「1羽の野鳥」が取った「まさかの行動」にSNS涙
  • 4
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 5
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 6
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月2…
  • 7
    為替は先が読みにくい?「ドル以外」に目を向けると…
  • 8
    アメリカの現状に「重なりすぎて怖い」...映画『ワン…
  • 9
    メーガン妃の「お尻」に手を伸ばすヘンリー王子、注…
  • 10
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 3
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 4
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 10
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story