コラム

安倍首相はイラン訪問で日本の国益と国際社会の安定のために勇気を示した

2019年06月17日(月)17時20分

第2に、安倍の訪問はアメリカが加速させている国際秩序の継続的崩壊を浮き彫りにするものでもある。国際社会に一貫性と責任感のある指導者が不在の今、安倍はその空白を埋める存在になりつつある。イラン訪問の目的は達成できなかったが、安倍が無秩序と混乱に向かおうとする国際政治の流れを止めようとした点は評価できる。

第3に、安倍の訪問は日本の国際的役割を第二次大戦後で最大レベルに高めようとする安倍自身の強い意志の表れでもある。現在の国際政治の潮流を考えれば、それは間違いなく日本の利益になる。世界の利益になることもほぼ確実だろう。

ある意味で安倍の動きは、アメリカによる2003年のイラク侵攻前にフランスのシラク大統領が取った行動とよく似ている。シラクはイラク侵攻に反対したが、止めることはできなかった。

それでも、フランスが当時のブッシュ米大統領の言いなりになっていたら、事態はさらに悪化していたはずだ。個々の取り組みが失敗に終わったとしても、原理原則を貫くことには十分な意味がある。

安倍は対米協調を維持しながら米・イランの対立緩和を目指し、一方でアメリカの一貫性欠如と中国の台頭によって生じた国際政治の空白を埋めようとしている。この政策は長期的に見て、日本と国際秩序の利益になる。一部の評論家による酷評は、その代償だ。

<2019年6月25日号掲載>

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グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

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