コラム

安倍首相はイラン訪問で日本の国益と国際社会の安定のために勇気を示した

2019年06月17日(月)17時20分

イランの最高指導者ハメネイ師(右)、ロウハニ大統領と会談する安倍 OFFICIAL KHAMENEI WEBSITE-REUTERS

<単なる「子供の使い」ではない。米・イラン間の緊張緩和は実現できなかったが、日米関係強化と日本の影響力拡大という成果はあった>

アメリカとイランとの緊張緩和を目指し、6月12~14日にイランを訪問した安倍晋三首相をどう評価すべきなのか。無駄足に終わった「子供の使い」か、世界の安定のためにあえてリスクを取った一流の政治家か。

私見では、安倍は日本の国益と国際社会の安定のために、侮られたり笑いものになることを恐れない勇気を示した。

最高指導者ハメネイ師とイラン政府の考えはともかく、少なくともイランの一部勢力は安倍の訪問に合わせてペルシャ湾で2隻のタンカーを攻撃した。ただし、そこに込められたメッセージは、安倍ではなくトランプ米大統領に向けられたものだ。

イランは中東で注意深く計算された攻撃を仕掛けているように見える。その目的は、イランに対する制裁と圧力を強めるアメリカの政策は世界経済と地域の安定に悪影響を及ぼす、とアピールすることだ。

アメリカが5月に制裁を強化する前のイランは日量約100万バレルの原油を輸出していたが、その後は半分に激減した。1カ月前には、何者かがペルシャ湾でタンカーなど4隻の商船を攻撃。5月14日には、イランの影響下にあるイエメンのシーア派武装組織ホーシー派がサウジアラビアの石油関連施設をドローン(無人機)で襲撃。そして今回のタンカー攻撃だ。

国際秩序の崩壊に抗して

アメリカは全てイランの仕業だと主張するが、イラン側はもちろん関与を否定している。一連の事件の背景として、考えられるシナリオは2つある。まず、イラン政府が嘘をつきながら、裏で事件を通じた自国の主張のアピールを狙っているケース。もう1つはイランの体制内強硬派、おそらくイラン革命防衛隊が穏健派の融和的な取り組みを邪魔しているケースだ。

安倍のイラン訪問は、激変する国際秩序の大きな潮流と同時に、より短期的な安倍の狙いも浮き彫りにした。まず、安倍は訪問前にトランプと入念に打ち合わせをしたとされる。

そうだとすれば、イランへの圧力強化を通じて中東でイランの振る舞いを根本的に変えようとするアメリカと、圧力がこのまま続けばアメリカと地域全体に代償を支払わせると明言するイランの仲介に安倍が失敗したとしても、この訪問は日米関係強化に役立ったことになる。

日本がイランとアメリカに及ぼせる影響力はごく限定的だ。それでも安倍は、失敗外交の批判と引き換えに日米関係の強化に成功した。この訪問で影響力が低下したわけではないし、日本の国際的役割は大きくなった。私の見るところ、明らかな成功だ。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシア凍結資産、ウクライナ支援に早急に利用=有志連

ビジネス

NY外為市場=ドル小動き、米利下げ観測維持 CPI

ワールド

トランプ氏、貿易に焦点 習氏との首脳会談で=米高官

ビジネス

米国株式市場=主要3指数最高値、予想下回るCPI好
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...装いの「ある点」めぐってネット騒然
  • 2
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 3
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月29日、ハーバード大教授「休暇はXデーの前に」
  • 4
    為替は先が読みにくい?「ドル以外」に目を向けると…
  • 5
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 6
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 9
    【ムカつく、落ち込む】感情に振り回されず、気楽に…
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 5
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 6
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 9
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 10
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story