コラム

DaiGo炎上問題、「問題提起」だろうと「個人の感想」だろうと許されない意見はある

2021年08月15日(日)15時48分

この点で、DaiGoに対して人権の社会的効用(たとえば弱者を救済することによって治安維持に繋がる、「本当に働けなくなった人」のセーフティネットは必要、など)を理由にDaiGoに反論している人も、筋はよろしくない。それは結局、生存権を主題にした「ディベート」に参加してしまっているからだ。ちなみにひろゆきもDaiGo発言を批判したが、その根拠は普遍的な人権ではなく社会的効用なのであった。しかし生存権は社会的効用とは無関係に存在するのであり、たとえ「問題提起」だったとしても否定されてはならない。これが人権というものについて、妥協できない大前提なのだ。

譲れない価値を前提にしない議論は危険

現代日本社会は、ある譲れない価値に基づいて何かを評価することを極端に嫌う。若い世代は特にそうだといわれている。全ての価値が相対化されているのだ。たとえ社会的弱者の生存権を否定するような発言でも、「ひとつの意見」として受け入れなければならないという間違った美徳がある。議論の機会はあらゆる意見に開かれていなければならないというのだ。しかし前述したように、世の中には議論してはいけない意見もある。差別思想を持つ者の「問題提起」に乗ってはいけない。生活保護や「ホームレス」問題に関心があるなら、経験豊富な支援団体にアクセスすればよい。そうすれば、より「建設的」な議論が可能となるだろう。

一方、特定の価値を前提にした議論を嫌う人たちにとっては、DaiGo的な語り口は魅力的なものに映る。価値なき世界において力を振るうのは経済力や発言力といった直接的なパワーだ。今回の炎上事件でDaiGoが経済力でマウントを取ろうとしたこと(自分は高額納税者なのだから批判者よりも生活困窮者支援を行なっているという趣旨の発言)が典型的だろう。これはまた、勝ち負けこそが全てのディベート的手法でもある。

DaiGoもひろゆきも議論の内容ではなく、議論の技術だけを語る。喧嘩戦略の巧みさを根拠に、DaiGoは2019年、「NHKから国民を守る党」の立花孝志を「第一級の政治家」と評価した(後に袂を分かつが)。さらに彼らは、何によって成功するかではなく、成功する技術を語る。他人の意見を聞くかどうかは、意見の内容に同意できるかではなく、自分の利益になるかどうかで判断する。DaiGoはそれに加えて、「メンタリスト」という立場から、俗流心理学を用いる。問題が何であれ、批判してくる人の「理由」ではなく、批判してくる人の「心理」を語るのだ。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ウクライナ和平交渉が2日目に、ゼレンスキー氏と米特

ビジネス

中国万科、償還延期拒否で18日に再び債権者会合 猶

ワールド

タイ、2月8日に総選挙 選管が発表

ワールド

フィリピン、中国に抗議へ 南シナ海で漁師負傷
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 5
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    大成功の東京デフリンピックが、日本人をこう変えた
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story